改訂新版 世界大百科事典 「プラウトの仮説」の意味・わかりやすい解説
プラウトの仮説 (プラウトのかせつ)
Prout's hypothesis
1815-16年,イギリスの医師プラウトW.Prout(1785-1850)によって提出された考え方で,すべての元素の原子量は水素の原子量の整数倍であり,水素はすべての元素を構成する根元物質であるという説。19世紀の初めころは,J.ドルトンの原子および原子量の概念が確立されたといってもまだ日も浅く,また測定技術からいってもすべての元素についての正確な原子量決定には至っていなかった。したがって決定された原子量の例も少なく,また決定された原子量の多くは整数であると考えられており,当時の知識からすればある程度必然的な結論ともいえよう。プラウトは,この考え方を匿名で学会誌に発表したのであるが,古く考えられた究極的物質の存在をその当時として復活したものといえる。この仮説を合理的なものであるとして,トムソンT.Thomson(1773-1852)のように原子量を整数にとるように苦心したものもあるが,J.J.ベルセリウスの原子量決定(1818,26),さらにその後のベルギーのスタスJ.S.Stas(1813-91)の努力による正確な決定などによって否定されるに至った。しかし19世紀後半になって元素が周期表に秩序正しく配列されることが明らかになるにつれ,諸元素は同じ基本的単位から構成されているという考え方が生まれ,プラウトの仮説が復活した。さらにF.W.アストンによる質量分析器の発明(1920)が,元素が同位体の混合物であり,各同位体の質量は水素のほぼ整数倍であることを明らかにすると,この1世紀前の仮説はまったく異なる脚光を浴びて蘇生した。プラウトがこの仮説において今日の陽子を考えていたとするのはいい過ぎであろうが,この仮説をめぐっての議論のなかから同じような考え方が出てきたことは確かであろう。
執筆者:中原 勝儼
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報