精選版 日本国語大辞典 「へ」の意味・読み・例文・類語
へ
① 移動性の動作の目標を示す。古くは「遠くへ」の気持を含む。→語誌(2)。
※土左(935頃)承平四年一二月二七日「都へと思ふをものの悲しきはかへらぬ人のあればなりけり」
② 動作・作用の帰着点を示す。→語誌(3)。
※宇治拾遺(1221頃)九「ここにやどりたる人の、〈略〉いぬるが、あすここへ帰りつかんずれば」
③ 動作・作用のおよぶ対象・方向を示す。→語誌(3)。
※源氏(1001‐14頃)須磨「二条院へたてまつり給」
※平家(13C前)一二「鎌倉殿より公家へ申されたりければ」
④ 物を移動させるときの帰着点を示す。→語誌(4)。
※延慶本平家(1309‐10)三本「水をだにも喉へ入給はず」
※徒然草(1331頃)一〇六「聖の馬を堀へ落してげり」
⑤ 動作の結果を示す。
※寛永刊本蒙求抄(1529頃)一「皆手下へなったぞ」
[語誌](1)語源は、「古事記‐下・歌謡」の「大和幣(ヘ)に行くは誰が夫隠津(こもりづ)の下よ延(は)へつつ行くは誰が夫」、「万葉‐三六四〇」の「都辺(へ)に行かむ舟もが刈り薦の乱れて思ふこと告げ遣らむ」のような「あたり」を意味する名詞「へ」にあり、上代には名詞か助詞か判別し難いものもあるが、次の例はまだ名詞と考えられる。「書紀‐欽明二三年七月・歌謡」の「韓国の城の上に立ちて大葉子は領巾(ひれ)振らすも大和陛(ヘ)向きて」、「万葉‐七二」の「玉藻刈る沖敝(ヘ)は漕がじしきたへの枕のあたり忘れかねつも」など。なお宣命や訓点語には用いられず、中古以後の和歌にも極めて少ないが、これも格助詞「へ」の成立が新しく、口頭語的であったためであろう。
(2)①の用法は、上代および中古前期では、言語主体の現在地点から遠く離れた場所に向かって移行する場合にだけ用いられ、「遠くへ」という気持を担っていると考えられるが、院政期以後その気持が薄れ、「ここへ」「こなたへ」など、自分の近くへの移動の場合にも用いられるようになる。
(3)②③の用法が盛んに用いられるのは中世以降である。但し、中古にもその早い例が僅かながら見られる。
(4)④の用法は中世に現われ、近世以後は豊富に用いられる。
(5)助詞「へ」は時代とともに①から④へとその用法を拡大し、勢力を増し、現代では同用法の「に」をしのぐに至っている。
(2)①の用法は、上代および中古前期では、言語主体の現在地点から遠く離れた場所に向かって移行する場合にだけ用いられ、「遠くへ」という気持を担っていると考えられるが、院政期以後その気持が薄れ、「ここへ」「こなたへ」など、自分の近くへの移動の場合にも用いられるようになる。
(3)②③の用法が盛んに用いられるのは中世以降である。但し、中古にもその早い例が僅かながら見られる。
(4)④の用法は中世に現われ、近世以後は豊富に用いられる。
(5)助詞「へ」は時代とともに①から④へとその用法を拡大し、勢力を増し、現代では同用法の「に」をしのぐに至っている。
へ
〘感動〙
② 相手の言行に答えたり釈明したり注意をひいたりする時、軽くへりくだった気持で発することば。
※大寺学校(1927)〈久保田万太郎〉四「酌をする。〈略〉『へ、おそれ入ります』」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報