(読み)ヘ

デジタル大辞泉 「へ」の意味・読み・例文・類語

へ[格助]

[格助]《現在では「え」と発音する》名詞に付く。
動作・作用の移動・進行する目標地点・方向を表す。…の方向に向かって。…の方へ。「西向かう」
今日けふ、車、京―とりにやる」〈土佐
動作・作用の行われる場所・帰着点を表す。…に。「庭物を捨てるな」「父も母も留守のところ訪ねてきた」
「十月十四日、関東―下着げちゃく」〈平家・八〉
動作・作用の向けられる相手・対象を表す。…に対して。…に。「父送った手紙」「お母さんよろしくお伝えください」
「われらが主の太政入道殿―、いかで参らであるべき」〈平家・二〉
[補説]「あたり」の意を表す名詞「」から転じたもの。本来は「に」が場所や動作・作用の帰着点を静止的に指示するのに対し、「へ」は、動作・作用の向かう目標を移動的に指示する傾向が強い。しかし、平安時代末ごろから、23の用法が生まれ、「に」との境界がしだいにあいまいになる。

へ[五十音]

五十音図ハ行の第4音。咽頭の無声摩擦子音[h]と母音[e]とから成る音節。[he]
平仮名「へ」、片仮名「ヘ」は、ともに「部」のつくり「阝」の草体から。
[補説](1) 「へ」は、古くは両唇の無声摩擦子音[Φ]と母音[e]とから成る音節[Φe]であり、さらに奈良時代以前には[pe]であったかともいわれる。室町時代末までは[Φe]であったが、江戸時代に入り、[he]となった。(2) 「へ」は、平安時代半ば以後、語中語尾では一般に[we][je]と混同し、室町時代末には[je]と発音されたが、のちさらに[e]と発音されるようになった。これらは歴史的仮名遣いでは「へ」と書くが、現代仮名遣いでは、助詞「へ」以外はすべて「え」と書く。

へ[感]

[感]
応答のとき、軽くへりくだった気持ちを示して発する声。「、恐れ入ります」
こばかにする気持ちを表すときに発する声。ふん。へん。「、つまらないことを言うね」

へ【ヘ】

洋楽の音名の一で、日本音名の第4音。

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精選版 日本国語大辞典 「へ」の意味・読み・例文・類語

  1. 〘 格助詞 〙 ( 現在では「え」と発音する ) 体言を受け、それが下の用言に対して連用修飾になることを示す。→語誌( 1 )
  2. 移動性の動作の目標を示す。古くは「遠くへ」の気持を含む。→語誌( 2 )
    1. [初出の実例]「沖へには 小舟連(つら)らく くろざやの まさづ子吾妹(わぎも)(ヘ)下らす」(出典古事記(712)下・歌謡)
    2. 「都と思ふをものの悲しきはかへらぬ人のあればなりけり」(出典:土左日記(935頃)承平四年一二月二七日)
  3. 動作・作用の帰着点を示す。→語誌( 3 )
    1. [初出の実例]「対渡り給ぬれば、のどやかに御物語などきこえておはする程に、日暮れかかりぬ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)横笛)
    2. 「ここにやどりたる人の、〈略〉いぬるが、あすここ帰りつかんずれば」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)九)
  4. 動作・作用のおよぶ対象・方向を示す。→語誌( 3 )
    1. [初出の実例]「二条院たてまつり給」(出典:源氏物語(1001‐14頃)須磨)
    2. 「鎌倉殿より公家申されたりければ」(出典:平家物語(13C前)一二)
  5. 物を移動させるときの帰着点を示す。→語誌( 4 )
    1. [初出の実例]「水をだにも喉入給はず」(出典:延慶本平家(1309‐10)三本)
    2. 「聖の馬を堀落してげり」(出典:徒然草(1331頃)一〇六)
  6. 動作の結果を示す。
    1. [初出の実例]「皆手下なったぞ」(出典:寛永刊本蒙求抄(1529頃)一)

への語誌

( 1 )語源は、「古事記‐下・歌謡」の「大和幣(ヘ)に行くは誰が夫隠津(こもりづ)の下よ延(は)へつつ行くは誰が夫」、「万葉‐三六四〇」の「都辺(へ)に行かむ舟もが刈り薦の乱れて思ふこと告げ遣らむ」のような「あたり」を意味する名詞「へ」にあり、上代には名詞か助詞か判別し難いものもあるが、次の例はまだ名詞と考えられる。「書紀‐欽明二三年七月・歌謡」の「韓国の城の上に立ちて大葉子は領巾(ひれ)振らすも大和陛(ヘ)向きて」、「万葉‐七二」の「玉藻刈る沖敝(ヘ)は漕がじしきたへの枕のあたり忘れかねつも」など。なお宣命や訓点語には用いられず、中古以後の和歌にも極めて少ないが、これも格助詞「へ」の成立が新しく、口頭語的であったためであろう。
( 2 )の用法は、上代および中古前期では、言語主体の現在地点から遠く離れた場所に向かって移行する場合にだけ用いられ、「遠くへ」という気持を担っていると考えられるが、院政期以後その気持が薄れ、「ここへ」「こなたへ」など、自分の近くへの移動の場合にも用いられるようになる。
( 3 )の用法が盛んに用いられるのは中世以降である。但し、中古にもその早い例が僅かながら見られる。
( 4 )の用法は中世に現われ、近世以後は豊富に用いられる。
( 5 )助詞「へ」は時代とともにからへとその用法を拡大し、勢力を増し、現代では同用法の「に」をしのぐに至っている。


へ【へ・ヘ】

  1. 〘 名詞 〙 五十音図の第六行第四段(ハ行エ段)に置かれ、五十音順で第二十九位のかな。いろは順では第六位で、「ほ」のあと「と」の前に位置する。現代標準語の発音では、咽頭の無声摩擦音 h (ほぼ母音 e の構えで声帯の振動を除いた際に呼気が軟口蓋にあたって生ずる摩擦音)と母音 e との結合した音節 he にあたり、これを清音の「へ」という。これに対して、「へ」に濁点をつけた「べ」は、両唇の閉鎖による有声破裂音 b の結合した音節 be にあてられ、これを「へ」の濁音という。また、「へ」に半濁点をつけた「ぺ」は、両唇の閉鎖による無声破裂音 p の結合した音節 pe にあてられ、それを「へ」の半濁音という。歴史的かなづかいでは、語中語末の「へ」を e と読むことが多い。現代かなづかいでは助詞の e を「へ」と書く。「へ」及び「ヘ」の字形は共に「部」の右部の阝の草体から出たもの。ローマ字では、清音に he、濁音に be、半濁音に pe をあて、助詞の「へ」には e を用いる。

  1. 〘 感動詞 〙
  2. 相手をこばかにするときに発することば。ふん。へん。
    1. [初出の実例]「すれば汝は又五郎が為には小舅か。さ様で御座る。へ、又五郎が女房も知れた」(出典:虎寛本狂言・八尾(室町末‐近世初))
  3. 相手の言行に答えたり釈明したり注意をひいたりする時、軽くへりくだった気持で発することば。
    1. [初出の実例]「酌をする。〈略〉『へ、おそれ入ります』」(出典:大寺学校(1927)〈久保田万太郎〉四)

へ【ヘ】

  1. 〘 名詞 〙 日本音名の第四番目の音の呼称。ドイツ、英、ラテン音名のF、フランス、イタリア音名のファにあたる。ヘ音。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「へ」の意味・わかりやすい解説

五十音図第6行第4段の仮名で、平仮名の「へ」は「部」のつくり部分の草体からなり、片仮名もその略体である。万葉仮名には2類あって、甲類に「敝、幣、弊、蔽、平、弁、反、陛(以上音仮名)、重、部、隔(以上訓仮名)」、乙類に「倍、陪、閇、閉、拜、俳、沛、杯(以上音仮名)、經、(以上訓仮名)」などが清音に使われ、濁音仮名としては、甲類に「弁、便、別、辨、謎(以上音仮名)、部(訓仮名)」(「弁、部」は清濁両用)、乙類に「倍、毎(以上音仮名のみ)」などが使われた。ほかに草仮名としては「(部)」「(邊)」「(遍)」「(幣)」などをくずしたものがある。音韻的には/he/(濁音/be/、半濁音/pe/)で、喉頭(こうとう)無声摩擦音[ɦ](両唇有声破裂音[b]、両唇無声破裂音[p])を子音にもつ。

[上野和昭]

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