アメリカのジャズ・サックス奏者。カリフォルニア州パサディナでドイツ系の父親とイタリア系の母親の間に生まれ、5歳のとき父方の祖母に預けられる。9歳でクラリネットを吹きはじめ、12歳のときアルト・サックスを贈られる。高校時代スクール・バンドの一員として演奏活動をしつつ、ロサンゼルスの黒人居住区に出かけ多くのジャズマンと交流をもつ。
1943年、18歳で作・編曲家、ピアノ奏者であるスタン・ケントンの楽団に入団し、初レコーディング『ゾーズ・ケントン・デイズ』Those Kenton Daysを体験、早くも才能の片鱗を見せる。入団直後兵役に就くが47年に復帰、51年まで在団する。51年から53年にかけては、ウェスト・コースト・ジャズの中心的人物であるトランペット奏者ショーティ・ロジャーズShorty Rogers(1924―94)のバンド「ショーティ・ロジャーズ・アンド・ヒズ・ジャイアンツ」に参加し、優れたアルト・サックス奏者としての評価を高める。この間自らのバンドも結成し、52年にはハリウッドの「サーフ・クラブ」に出演。同年ディスカバリー・レコードに初めてのリーダー・セッションを吹き込む。この演奏はアルバム『サーフ・ライド』として後にサボイ・レーベルから発売された。53年麻薬中毒のため刑務所に収監、54年再び投獄される。55年ジャズ・シーンに復帰、56年にかけて多くの名演を残す。この時期は彼の優れた特質がよく表れた絶頂期といってよく、アルバム『マーティ・ペイチ・カルテット・フィーチャリング・アート・ペッパー』『モダン・アート』(ともに1956)など、独特の哀感のこもったフレージングでファンに強い印象を与えた。57年には、トランペット奏者マイルス・デービスのリズム・セクションと共演したアルバム『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』を発表する。
60年代のペッパーは薬物中毒による刑務所暮らしのため、中央のシーンからは遠ざかっていたが、64年一時出所のおりは従来の持ち味を一転させ、テナー・サックス奏者ジョン・コルトレーンの影響を強く受けた攻撃的ともいえる演奏を行っている。69年自ら薬物中毒の治療機関であるカリフォルニア州の「シナノン」に入所、同施設でボランティア活動をしていた写真家ローリーLaurieと出会い、出所後2人は71年に結婚する。75年復帰第一作アルバム『リヴィング・リジェンド』を発表、15年ぶりのリーダー作は大きな話題を呼び、77年(昭和52)初来日した際はファンの熱狂的歓迎を受ける。79年ローリーの協力により自伝『ストレート・ライフ』Straight Lifeを上梓、その赤裸々な告白が評判となる。
彼のアルト・サックス奏法は、チャーリー・パーカーの存在が絶対的であった時代に珍しくその影響が希薄で、その点だけでもオリジナリティに富んだ個性的なものだった。また、前期の叙情性豊かな表現から、後期のコルトレーンの影響を受けたアグレッシブなスタイルに至る変化も興味深い。
[後藤雅洋]
『アート・ペッパー、ローリー・ぺッパー著、村越薫訳『ストレート・ライフ』(1981・スイングジャーナル社)』
愛称アート・ペッパーArt Pepperの名で親しまれるアメリカの白人のジャズ・アルト・サックス奏者。1947-52年,スタン・ケントン楽団のスター・ソリストとして人気を得,独立したが麻薬でキャリアはしばしば中断した。しかしカリフォルニアの麻薬治療センター〈シナノン〉での療養ののち,74年2月にカムバックし,翌年コンテンポラリーから15年ぶりの新作を発表した。70年代末から主流派モダン・ジャズ復興の波に乗って人気も急上昇し,とくに日本で最高の人気をもつジャズメンの一人となった。すばらしいアドリブ奏者で,晩年はコルトレーンに傾倒し,いっそうの精進をみせた。赤裸々な自叙伝《ストレート・ライフ》も話題を投じた。代表作に《ミーツ・ザ・リズム・セクション》《ライブ・アット・ビレッジ・バンガード》(ともにコンテンポラリー)など。
執筆者:油井 正一
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(2014-6-9)
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…【鈴木 晋一】
[コショウ交易]
コショウは古代から近世までの東西交易における主要商品であり,西ヨーロッパ,中国で珍重された。ペッパーpepperはサンスクリット語のpippali(ナガコショウ)が転訛した語とされるが,インド産のものが中央アジアの通商路を経由して中国にもたらされたため,〈胡〉の〈さんしょう(椒)〉とよびならわされた。ギリシア・ローマ時代には南インドのマラバル産コショウがインド洋の貿易風(ヒッパロスの風)を利用して輸出された。…
※「ペッパー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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