ホルン(読み)ほるん(英語表記)Arvid Bernhard Horn

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホルン」の意味・わかりやすい解説

ホルン(Rebecca Horn)
ほるん
Rebecca Horn
(1944― )

ドイツの美術家。フランクフルト近郊のミヘルシュタットに生まれる。パフォーマンス作品をはじめ、シュルレアリスティックな装置、インスタレーション、映画などその作品は多岐にわたるが、主題となっているのはいつでも人間の身体や感覚である。

 10代のころからレーモン・ルーセルなどのシュルレアリスム文学を読み、シュルレアリスムはもちろん錬金術やナンセンスなものに関心を抱く。1964年から70年まで、ハンブルクの絵画芸術高等学校に学ぶが、当時の彼女が大きな関心を抱いていたのは、フランツ・カフカやジャン・ジュネらの文学、またルイス・ブニュエルやピエル・パオロ・パゾリーニらの映画だった。特にカフカの文章は、後に94年の『カフカの連作』など作品の主題としてたびたび現れる。

 だがこの間68年に肺病にかかり、制作に使う素材を制限せざるをえなくなる。特に彫刻制作のための素材には、弱った肺に深刻な影響を与えるものがあったからである。サナトリウムで療養を続け、ベッドを離れることのできない日々のなかで、彼女はいやおうなく自分の身体について、あるいはその自分の身体を日常的に取り囲む医療器具、医療用品について強く意識するようになった。ホルンはまず、身体につけるさまざまな医療器具をモチーフにした作品を制作する。たとえば68年の『腕の延長』では、足首から腹部までをがんじがらめにした包帯状の布が、そのまま両腕に巻き付けられ、ちょうど極端に長くしたギプスのように、両腕を地面まで延ばす。拘束具のようでも補助具のようでもある両義的なこの器具は、しかし、いずれにせよ人間とその外部世界との接触の仕方を変える。この「人間とその外部世界との関係の変容」というテーマは、このころの彼女の作品に共通している。

 さらに70年ごろから、ホルンはこれらの器具を装着した人間によるパフォーマンス作品を制作する。その代表的な作品に70年の『一角獣』がある。この作品でホルンはまず、町でみつけた女性に頼んで上半身裸になってもらう。彼女はこの女性の身体に、やはり拘束具のようにして包帯を巻き付け、それをこんどは頭部を経由してそのまま頭上高く、ちょうど一角獣の角のように伸ばした状態で固める。女性はその姿のまま一人で公園を歩いてゆく。むきだしになった乳房はあからさまに女性を象徴するだろうし、一方、頭上にそびえる一本の角は男性の象徴としてのペニスを想起させる。この作品にもやはり両義性、特にセックスの両義性が示されている。またホルンは、同じころ、こうしたパフォーマンス作品をフィルムやビデオに収める。これらはしだいに映像による作品として独立し、90年一般公開用の長編映画『バスターの寝室』Baster's Bedroomを監督する。

 70年代の終わりごろより、しだいに、実際に人間の身体が登場する作品から、自動的に動いて人間の身体や動きを感じさせる、機械のような装置へと移行する。この傾向を代表する作品としては、『羽毛の牢獄=扇』(1978)、『無政府状態のためのコンサート』(1990)がある。前者は羽毛でつくった直径2メートルほどの大きな扇を2枚、向かい合わせにしてシェルターのかたちにしたものであり、これは人間をその中に入れた状態で、モーターによって自動的に開閉する。後者は天井からグランド・ピアノ逆さ吊りにし、一定の時間になると鍵盤がピアノ本体から吐き出されるように出てきて、混沌とした音を出したあと、また引っ込む、というものである。いずれもその動きに意味があるわけではないが、まさにその点がどこか愛嬌を感じさせる作品となっている。

[林 卓行]


ホルン(楽器)
ほるん
Horn ドイツ語
horn 英語
corno イタリア語

リップリード(唇を振動源とする)の気鳴楽器。一般的にはヨーロッパで発達した金属製の楽器(フレンチ・ホルン)をさすが、広義には角笛(つのぶえ)や法螺貝(ほらがい)の類全般をさすこともある。楽器分類では、諸民族の角笛系統の楽器を、円筒管を基本とするトランペット系と、円錐(えんすい)管を基本とするホルン系の2種に分ける場合もあるが、実際には管の形状からこのどちらかに分類してしまうことには無理がある。ホルンボステルザックスの楽器分類法では、ホルンという名称がトランペットの下位分類として扱われている。

 フレンチ・ホルンの外形上の特徴としては、細長い管を丸く巻いてまとめていること、ベル(朝顔)の直径が約30センチメートルと急激に広がっていることがあげられる。しかし、管全体の内径は、ベルの近くまでそれほど大きくなってはいない。マウスピースはトランペットやトロンボーンなどのカップ型と違って細長く、内面が緩やかにすぼまったじょうご型である。これが、管の形状と相まってホルン独得の丸い深みのある音色を生み出す。現在用いられているホルンはF管(管長約3.7メートル)が標準であるが、それより短いB♭管(管長約2.8メートル)やF管・B♭管双方の機構を備えたダブル・ホルンを用いることも多い。また、これらよりも1オクターブ高いものなどもつくられている。音高変化のためのバルブはロータリー式とピストン式の2種類があるが、今日ではロータリー式が優勢である。通常、人差し指・中指・薬指で操作する三つのバルブがあるが、ダブル・ホルンにはF管とB♭管を切り替えるために親指で操作する第四のバルブがある。またこのバルブの操作によって、同一の音高がいくつかの指使いで得られるため、音色の変化をつけることができる。

 ホルンは、唇を調節して倍音を変えることと、左手でバルブを操作することで必要な音高を得るが、その奏法上の特徴としては、右手の使用があげられる。奏者は体の右側にベルが後ろ向きになるように楽器を構え、右手をベルの内側に入れている。そして必要に応じて、手をベルの奥に入れて音色・音高を変化させるのである。手の入れぐあいを加減することで微妙な変化をつけることも可能である。これはストップ奏法とよばれ、ホルン特有のものである。

 ビバルディモーツァルト、R・シュトラウスらがホルンのための協奏曲を作曲しているが、おもにホルンは管弦楽吹奏楽のなかで用いられ、とくにゆったりとしたロマンチックな旋律を歌うのに適している。ウェーバーのオペラ『魔弾の射手』やブラームスの交響曲第3番などが好例であろう。

[卜田隆嗣]



ホルン(Gyula Horn)
ほるん
Gyula Horn
(1932― )

ハンガリーの政治家。7月5日ブダペストに生まれる。1954年にドン・ロストフの経済・財政学大学を卒業。経済学博士候補資格を得る。1954~1959年財務省の課長、その後外務省の旧ソ連関係部の外交官補となる。ブルガリア、旧ユーゴスラビアでハンガリー大使館の書記官および顧問となり、ハンガリー社会主義労働者党本部の国際関係部長を務める。1985~1989年外務省の長官、1989~1990年外務大臣。1980年代末から、ハンガリーの改革運動に主導的な役割を果たす。この時代に、韓国、イスラエルとの外交関係を確立し、その後オーストリアとの国境にある鉄条網「鉄のカーテン」を開き、当時の東ドイツの住民がハンガリーから西側に逃れるのを助け、それによりドイツの再統一を側面援助した。さらに、ハンガリーから旧ソ連軍が撤退する協定を準備し、最終的にそれを実現した。

 1989年ハンガリー社会主義労働者党の改名に際し、その改革派を結集したハンガリー社会党の創設者の一人。1989年10月にハンガリー社会党国家常任幹部会のメンバー。1990年にハンガリー社会党の議長となる。この時代に、社会党は周辺国の社会主義政党とともに、社会民主党型のスタイルを受け入れるようになり、国際社会民主主義運動、社会主義インターナショナルに加盟。1990年の総選挙で国会議員となり、外務省議会資格委員会の議長。1994年ハンガリー社会党の党候補者名簿の第1位となり、同年、首相に任命される。旧共産党の官僚からあがってきた人間であるにもかかわらず、その政治手腕と素朴な人格ゆえに国民の間に安定した支持を得ていた。しかし、1998年5月の総選挙で社会党は敗北、政権の座を降りた。

[羽場久浘子]


ホルン(Arvid Bernhard Horn)
ほるん
Arvid Bernhard Horn
(1664―1742)

スウェーデンの軍人、政治家。1687年以後ハンガリー軍、オランダ軍などに勤務。のち、皇太子時代のカール12世の側近となった。1700年大北方戦争が始まると、国王とともに大陸に遠征。1706年伯爵となり、国務院議官として帰国を命ぜられ、以後本国の政界で活躍、1710~1719年宰相となった。この間、軍事・財政政策をめぐってしばしば国王と対立。1720年議会議長として反絶対主義憲法の制定を実現した。同年ふたたび宰相となり、1721年大北方戦争を終結させ、対外的には協調主義、とくにロシアとの協調を基軸として国政を指導した。また、1724年航海条例を制定し、新興産業を保護育成した。1730年ごろから対外強硬論を基調とする反対勢力「ハット党」の結集を招き、1738年の議会においてハット党の圧力により辞任を強いられた。

[本間晴樹]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ホルン」の意味・わかりやすい解説

ホルン
Horn, Arvid Bernhard, Greve av

[生]1664.4.6. フィンランド,ブオレンタカ
[没]1742.4.17. エケビュハルム
スウェーデンの軍人,政治家。伯爵。カルル 12世の皇太子時代の軍事上の師で,北方戦争において軍事・外交面で活躍。絶対王政に反対し,カルル 12世没後,スウェーデンの議会主義 (身分制議会) 確立に大きな役割を果した。みずからはキャップ党 (→キャップ党・ハット党 ) を率い「自由の時代」の初期 (1720~38) 国政を掌握した。

ホルン
horn

金管楽器の一種。「フレンチ・ホルン」ともいう。角笛から発達し,長い管を円形に巻いた中音域用の楽器で,朝顔形に開いた長いチューブの全長は約 3.7m。現在交響楽用に使われているものは,1650年頃のフランスの狩猟用ラッパに由来する。基音を変化させて半音階的な演奏を可能にするように,3個のバルブがついている。

ホルン

「ホールネ」のページをご覧ください。

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