日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボツリヌス療法」の意味・わかりやすい解説
ボツリヌス療法
ぼつりぬすりょうほう
ボツリヌス毒素(ボツリヌストキシン)を成分とする薬を筋肉内に注射する治療法。ボツリヌス毒素は、食中毒の原因となり、神経毒による特有の麻痺(まひ)症状を誘発するボツリヌス菌から合成される天然由来のタンパク質である。毒性は強いが、アセチルコリンの放出を抑制し神経伝達を阻害することで緊張している筋肉を弛緩(しかん)させる作用を示す。そのため少量注射することで局所的に筋緊張がゆるみ、結果として姿勢や運動障害を改善する効果が得られる。同時に関節を動かそうとするときに強い抵抗を感じる痙縮(けいしゅく)や、関節拘縮もしくは変形などの予防にも効果を示し、結果として痛みを緩和するように働く。薬の効果は注射後2~3日から現れしばらく持続するが、徐々に消失しおよそ3~4か月で筋の緊張が元に戻る。すなわち根治的治療ではなく、症状の程度はさまざまであるが再発することが多く、持続して治療していく場合は年に数回の繰り返し投与が必要となる。この療法は広く世界で認められ、取り入れられている。日本では、片側顔面けいれん(片側の顔面筋が不随意に収縮するチック)に対して、また脳性麻痺による下肢痙縮に伴う尖足(せんそく)(つまさき立ちとなりかかとが上がる)、および局所性ジストニアである攣縮(れんしゅく)性斜頸(しゃけい)(痙性斜頸、首が側方に曲がったりねじれたりする)と眼瞼(がんけん)けいれん(眼瞼がけいれんにより閉鎖する)に対して認可されており、2014年(平成26)までに10万人以上がこの治療を受けている。近年ではわきの下に大量の汗をかく重度の腋窩(えきか)多汗症についても保険が適用される。副作用を伴うことも多く、注射部位の発赤、腫脹(しゅちょう)、熱感などのほか、発熱、倦怠(けんたい)・脱力感、起立・歩行困難、嚥下(えんげ)困難、呼吸困難、排尿困難など多様な症状があるが、ほとんどは一過性で消失するとされている。
[編集部]