改訂新版 世界大百科事典 「マックスプランク協会」の意味・わかりやすい解説
マックス・プランク協会 (マックスプランクきょうかい)
Max-Planck-Gesellschaft zur Förderung der Wissenschaften
英語表記はMax Planck Society for the Advancement of Science。ドイツにおける科学研究を推進・振興するための機関。ミュンヘンに本拠をおき,自然諸科学から人文・社会諸科学に至る,全学問分野について,ドイツ各地に59にもおよぶ研究所と1万人以上のスタッフ(うち研究者は約4000人)を擁している(1983現在)。協会は独自の基金を有し,特許収入のほか寄付金も寄せられるが,予算の大半は連邦政府および諸州政府によってまかなわれている。
マックス・プランク協会の前身は,ベルリン大学創立100年を記念して,1911年に設立されたカイザー・ウィルヘルム協会Kaiser Wilhelm-Gesellschaft zur Förderung der Wissenschaften(以下KWGと略記)である。KWGの設立にあたっては,研究者を教育義務から解放し,学問研究に専念できるような施設をつくるべきだという神学者A.vonハルナックの提案があずかって力があった。このような事情からハルナックがKWGの初代総裁に就任し,30年からは著名な物理学者M.プランクがその後を襲った。KWGは,主として自然科学方面の研究所をドイツ各地に設立した。例えば,ベルリンにはアインシュタインを擁する物理学研究所のほか,化学,物理化学および電気化学,実験医学などの各研究所がおかれた。またKWGはイタリアやブラジルなど海外にも研究所を設立し,戦間期(第1次大戦から第2次大戦の間の時期)のドイツ学問の中枢としての役割を存分に果たした。実際,ドイツ人ノーベル賞受賞者のかなりの部分はKWGの研究員であった。
しかし,30年代以降のナチスの興隆はKWGの栄光にしだいに暗い影を落とすようになった。ユダヤ人科学者に対するナチスの弾圧は,プランクらの抵抗にもかかわらず,KWGにも及び,アインシュタインらユダヤ人科学者の多くは亡命を余儀なくされ,KWGはその頭脳の大半を失った。
大戦後の混乱の中で,いち早くKWGの再建が論議されたが,カイザー(皇帝)という帝国主義的な語は占領軍当局によって忌避された。そこで,ドイツ物理学界の長老でKWGとも縁の深かったプランクの名まえが選ばれ,46年,イギリス占領地区で,マックス・プランク協会の設立が宣言された。初代総裁にはO.ハーンが就任した。その後,マックス・プランク協会は,西ドイツの復興とともに発展・拡大を遂げ今日に至っている。近年は,人文・社会科学系の研究所の充実が著しい。現在,マックス・プランク協会は,KWGが戦前のドイツ科学に占めた地位を回復し,西ドイツの学術研究の中心となっている。
執筆者:成定 薫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報