改訂新版 世界大百科事典 「マンモルト」の意味・わかりやすい解説
マンモルト
mainmorte[フランス]
西欧中世における領主による領民の財産への支配を指す用語。領主制においては,領主の支配は領民の身柄だけでなく,程度の差こそあれ財産にも及んでいた。そのため領民の死亡に際して,領主がその財産への権利を行使することになり,相続人は財産(農民保有地を含む)を完全には相続できないことが多かった。こうした制度は〈死者の手〉を意味するマンモルトの語で呼ばれた。具体的には,当初は同居していた直系相続人がない場合に財産全体が領主に帰属する形態をとっていたものが,しだいに領民の死亡ごとに最良の動産(ことに〈最良の家畜〉)が領主に引き渡される形態が一般的になった。これはしばしば死亡税と訳され,領主による農奴への人身支配の象徴でもあった。マンモルトの徴収は,領主による人身的支配でも領域的支配でもあったから,その普及の度合は時期と地域によってかなり異なるが,11~12世紀に最盛期を迎えたのち,農民層の経済的・社会的地位の向上に伴って軽減ないし廃止されつつ,部分的には近世にまで存続した。
執筆者:森本 芳樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報