日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムカシトンボ」の意味・わかりやすい解説
ムカシトンボ
むかしとんぼ / 昔蜻蛉
[学] Epiophlebia superstes
昆虫綱トンボ目ムカシトンボ科に属する昆虫。この類の現存種は2種だけで、日本産のムカシトンボとヒマラヤ山系のヒマラヤムカシトンボEpiophlebia laidlawiで、ムカシトンボ亜目を形成する。中生代のジュラ紀を中心に栄えた一群の遺存種で、現存の二大亜目のトンボの中間的性質がみられる。中形種(体長約50ミリメートル、後翅(こうし)長約38ミリメートル)、体はややサナエトンボに似た黒色の地に黄斑(おうはん)をもつが、はねは基部で細まって、翅脈は均翅亜目的であり、生殖器、尾部付属器、筋肉などにも原始的特徴がみられる。日本列島では北海道から九州南端部まで産するが、島嶼(とうしょ)では隠岐(おき)と天草諸島に限られる。幼虫は山間の渓流で低水温の環境だけに生活し、その期間は7~8年にわたると推定される。
春季4~5月に羽化するが、幼虫羽化直前の数週間は陸上の地面の間に潜む。渓谷の上空を飛翔(ひしょう)して摂食し、雄は流水辺にきて雌を求め、流水を遡行(そこう)して飛翔するのがみられる。交尾は静止して行い、雌は水辺の流れに接したフキ、ワサビなどの組織の柔らかい植物体に止まって産卵する。卵はソーセージ形で植物組織中に規則正しく蛇行状をなして産み込まれ、4回の産卵数が1000個に達することがある。卵は20℃ぐらいでは約1か月を経て孵化(ふか)し、エビのような形をした原幼虫は産卵孔から脱出して水中に落ちる。幼虫の形はまったく不均翅型であるが、呼吸器などにはすこぶる原始的特徴がみられる。最近、渓流沿いのコケ類にも産卵することがわかった。
[朝比奈正二郎]