改訂新版 世界大百科事典 「ムシトリスミレ」の意味・わかりやすい解説
ムシトリスミレ
butterwort
Pinguicula macroceras Link
日本~北アメリカ北部の高山から寒帯で湿った崖地または湿地に自生し,スミレに似た花をつけるタヌキモ科の多年生食虫植物。葉は長楕円形で,縁がそり上がり,長さ2~5.5cm,幅7~18mm,根もとで数枚が展開してロゼットをつくる。葉の表面と花茎に多数の腺毛と腺組織があり,粘液を出してとりもち式に小動物を捕らえる。消化酵素はアミラーゼ,プロテアーゼなどであり,獲物を消化吸収する。夏,長さ2~20cmの花茎を3~8本出し,頂部に紫色~白色の1花をつける。萼は5片。花冠は,基部に後部へとがった距をもち,唇形。上唇は2裂し,下唇は3裂している。
似た種として,日光付近の高山崖地にのみ見られ,特別天然記念物に指定されているコウシンソウP.ramosa Miyoshiがある。この種は,花茎が途中で2枝に分かれ,果実の完熟に合わせて上方に向かって伸び続け,岩におしつけるようにして蒴果(さくか)を裂開させて種子散布をする点が,特徴的である。
執筆者:近藤 勝彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報