ムタナッビー(読み)むたなっびー(英語表記)al-Mutanabbī

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ムタナッビー」の意味・わかりやすい解説

ムタナッビー
al-Mutanabbī

[生]915. イラククーファ
[没]965.8. ダイル・アルアークル
アラブの詩人。本名 Abū al-Tayyib Aḥmad ibn Ḥusain。ムタナッビーは「預言者と称する男」という意味のあだ名。水運び人の子として生れ,若い頃シリア砂漠遊牧民のなかに入り,生粋のアラビア語を学んだ。稀有の詩才と非凡な記憶力,および南アラブ族の優越性に対する強い誇りをもっていた。過激な政治,宗教運動に加わったり,みずから預言者と称したりし,投獄流浪など波乱の多い歳月をおくったが,すぐれた詩をつくりつつ,シリア,エジプト,イラクなどの宮廷をめぐり歩いた。やがて大詩人として多くの賛美者を得たが,そしる者も多かった。晩年シーラーズにいたブワイフ朝の王アドゥド・ウッダウラの宮廷に迎えられ,そこからバグダードに向う途中,遊牧民の群盗に襲われ息子とともに殺された。死後,アラブ族の生んだ最も偉大な詩人の一人との評価が定まった。「ディーワーン」 (個人詩集) がある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムタナッビー」の意味・わかりやすい解説

ムタナッビー
むたなっびー
al-Mutanabbī
(915―965)

アラブの大詩人。イラクのクーファに生まれ育ち、ダマスカス(シリア)で学んだが、砂漠の遊牧民のなかに入ってアラビア語の知識を深めた。詩作に疑問を抱き、政治活動に走って投獄されたこともある。ムタナッビー(自ら予言する者)とはこのころにつけられたあだ名である。釈放後アレッポ(シリア)の宮殿に招かれ、サイフッダウラ王の厚遇を得て多くの賛詩を捧(ささ)げたが、9年後には王と不和となり、エジプトへ逃れた。その後旅の途中で無頼の徒に殺害された。尊大で豪放無頼の生活を送ったといわれるが、その詩は知的で、不安の哲学やアラブ至上主義の思想もうかがわれる。

[内記良一]

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