1924年(大正13)10月に創刊された文芸同人雑誌『文芸時代』を拠点とした新進作家、横光利一(よこみつりいち)、川端康成(やすなり)、片岡鉄兵(てっぺい)、中河与一(なかがわよいち)、今東光(こんとうこう)、岸田国士(くにお)などを一括総称していう。同誌創刊号に掲載された横光の短編小説『頭ならびに腹』に注目した千葉亀雄が、その表現法の奇抜さに着目して、評論「新感覚派の誕生」(『世紀』1938.11)を書く。これが「新感覚派」呼称の最初となる。千葉の観点によれば、横光などの表現には「内部人生全面の存在と意義」を「小さな穴」を通して「象徴」主義的に表現した新傾向がみえ、これを「新感覚」と称したのである。横光の『頭ならびに腹』の冒頭の一節「真昼である。特別急行列車は満員のまま全速力で駆けてゐた。沿線の小駅は石のやうに黙殺された。」という即物的な比喩(ひゆ)表現をめぐって、広津和郎(かずお)、生田長江(いくたちょうこう)などが激しい批判を浴びせたが、晩年の芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)は違和感をもちつつもそこに可能性を認めようと努めた。さらに斎藤龍太郎(りゅうたろう)は「横光利一氏の芸術」(『文芸時代』1925.1)を書いて横光の「擬人法的手法」に疑義を提出した。同人側からは、千葉の呼称を受けて片岡が「若き読者に訴ふ」(1924.12)、川端が「新進作家の新傾向解説」(1925.1)、横光が「感覚活動」(1925.12、のち「新感覚論」と改題)などを『文芸時代』に書いて、時代状況と表現の革新について発言した。今日的にみれば、その擬人法的、象徴主義的文体にみるべきものがあり、ルナールの岸田国士訳『葡萄(ぶどう)畑の葡萄作り』、前田晁(あきら)訳『キイランド集』、ポール・モーランの堀口大学訳『夜ひらく』などの影響もみられる。
[栗坪良樹]
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文学流派。1924年(大正13)10月に同人雑誌《文芸時代》(1927年5月終刊)が創刊され,そこに結集した横光利一,川端康成,中河与一,今東光,片岡鉄兵らがこの名で呼ばれ,表現技法の革新を行った。命名者は千葉亀雄で《世紀》24年11月号誌上の文芸時評で〈新感覚派の誕生〉をうたったことによりこの名が文壇に定着した。代表作には横光の《頭ならびに腹》(1924),川端の掌編小説集《感情装飾》(1926),中河の《肉体の暴風》(1929)などがある。ポール・モランの影響があげられ,またプルーストやジェームズ・ジョイスの技法が援用された。当時文壇を二分していたプロレタリア文学の作家にも影響力を持った。ただし,前衛的な表現技法の末梢感覚に走った結果,比較的短期間で新鮮な魅力を失って腐食し,人間解体の欠陥が露呈された。最も長期にわたってその本質を生かし続けたのは川端で,その頂点に位置する作品が《雪国》(1935-47)である。横光は《機械》(1930)で成功したのち,純粋小説の方向をたどった。
執筆者:長谷川 泉
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(井上健 東京大学大学院総合文化研究科教授 / 2007年)
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大正末期に登場した文芸思潮。1924年(大正13)創刊の雑誌「文芸時代」によった横光利一・川端康成(やすなり)らの作品傾向をさす。伝統社会が急激に変容するなか,都市的生活における人間と物質との新しい関係をふまえた文学表現を求め,無生物を主語とする文章など新たな文体と作品世界を創出した。プロレタリア文学の勃興を前に芸術派の文学者の結集という面ももつ。名称は千葉亀雄が横光の「頭ならびに腹」に寄せた評言による。
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