デジタル大辞泉
「ゆ」の意味・読み・例文・類語
ゆ[格助]
[格助]《上代語》名詞に付く。
1 動作・作用の起点を表す。…から。
「朝に日に見まく欲りするその玉をいかにせばかも手―離れずあらむ」〈万・四〇三〉
2 動作の移動・経由する場所を表す。…を通って。
「川沿ひの岡辺の道―昨日こそ我が越え来しか」〈万・一七五一〉
3 比較の基準を表す。…に比べて。…より。
「衣手葦毛の馬のいなく声心あれかも常―異に鳴く」〈万・三三二八〉
4 動作の手段・方法を表す。…によって。…で。→ゆり →よ →より
「小筑波の繁き木の間よ立つ鳥の目―か汝を見むさ寝ざらなくに」〈万・三三九六〉
ゆ[助動]
[助動][え|え|ゆ|ゆる|ゆれ|○]《上代語》四段・ナ変・ラ変動詞の未然形に付く。
1 受け身の意を表す。…れる。
「手束杖腰にたがねてか行けば人に厭はえかく行けば人に憎まえ」〈万・八〇四〉
2 可能の意を表す。…ことができる。
「日な曇り碓氷の坂を越えしだに妹が恋ひしく忘らえぬかも」〈万・四四〇七〉
3 自発の意を表す。自然に…となる。→らゆ
「大君の継ぎて見すらし高円の野辺見るごとに音のみし泣かゆ」〈万・四五一〇〉
[補説]「る」に先行する助動詞。2の意味で用いられるときは、打消しの語を伴い、不可能の意を表すことが多い。平安時代以降は「る」が使われたが、「聞かゆ」「思はゆ」などは音変化して一語化し、「聞こゆ」「おもほゆ」(さらに転じて「おぼゆ」)の形で用いられた。平安時代以降では、連体詞「あらゆる」「いわゆる」などに連体形「ゆる」の形をとどめている。
ゆ[五十音]
1 五十音図ヤ行の第3音。硬口蓋と前舌との間を狭めて発する半母音[j]と母音[u]とから成る音節。[ju]
2 平仮名「ゆ」は「由」の草体から。片仮名「ユ」は「由」の末2画の変形によるもの。
[補説]「ゆ」は、また、「きゅ」「しゅ」「ちゅ」などの拗音の音節を表すのに、「き」「し」「ち」などの仮名とともに用いられる。現代仮名遣いでは拗音の「ゆ」は、なるべく小書きにすることになっている。
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ゆ
- 〘 助動詞 〙 ( 活用は「え・え・ゆ・ゆる・ゆれ・◯」四段・ラ変動詞の未然形に付く ) 自発・受身・可能の助動詞。中古の「る」に当たる。
- ① 自発。ある動作が自然に行なわれること、無意識的にある行為をしてしまうことを表わす。
- [初出の実例]「漁りする海人の子どもと人は言へど見るに知ら延(エ)ぬうまひとの子と」(出典:万葉集(8C後)五・八五三)
- ② 受身。他から動作を受ける意を表わす。動作の受け手(「ゆ」が付いた動詞に対する主語)は、人間・動物など有情のものであるのがふつうで、また、その動作を受けることによって、被害や迷惑、または恩恵などを受ける意味をも含むことが多い。動作の行ない手は、「…に」の形で表現される例が多い。
- [初出の実例]「手束杖(たつかづゑ) 腰にたがねて か行けば 人に厭(いと)は延(エ) かく行けば 人に憎ま延(エ)」(出典:万葉集(8C後)五・八〇四)
- ③ ( 打消の助動詞を伴って ) 不可能の意を表わす。
- [初出の実例]「山越えて海渡るともおもしろき今城のうちは忘ら庾(ユ)ましじ」(出典:日本書紀(720)斉明四年一〇月・歌謡)
ゆの語誌
( 1 )「らゆ」とともに、中古以降の「る」━「らる」に対応する。ただし、上代にも「る」の例は少数ある。命令形は現われない。
( 2 )語源上、「見ゆ」「燃ゆ」「消ゆ」「絶ゆ」など、いわゆる他動詞を対応形にもつヤ行下二段動詞の語尾と同じもので、作用を自然に発動する変化またはその状態としてとらえるのが原義と考えられる。それが、「見ゆ」にも「人に見ゆ」(見られる意)などの用法のあるように、受身の意味を明らかにするために用いられ、一方、否定を伴うと、不可能の意を示すことになった。
( 3 )四段活用動詞の未然形に付くものを助動詞として取り扱うが、「思ふ」「聞く」に付いた場合のように、早く「思ほゆ」(さらに「おぼゆ」)「聞こゆ」となって、一動詞の語尾として扱われるものがある。
( 4 )上一段活用動詞「射る」について、「射ゆ」の受身用法の例があり、これを普通に助動詞の「ゆ」と説く。「書紀‐斉明四年五月・歌謡」の「射喩(ユ)獣(しし)を認(つな)ぐ川上(かはへ)の若草の若くありきと我が思(も)はなくに」や「万葉‐三八七四」の「所射(いゆ)鹿を認ぐ川辺のにこ草の身の若かへにさ寝し子らはも」など。そのほか枕詞に用いた「所射(いゆ)ししの」もある。これらはすべて「ゆ」の形を連体法に用いており、しかも「しし」につづく固定的な表現であるが、「見ゆ」に合わせて、古くは上一段動詞にも「ゆ」が付いたとすることができよう。
( 5 )中古には、漢文訓読に「地蔵十輪経元慶七年点‐七」の「当来に有ら所(エ)む罪咎を防護すべし」のように、多少引き継がれ、また、「あらゆる」「いはゆる」のように連体詞として固定したものが後世まで用いられたほかは、一般に「る」に代わった。なお、ラ変動詞「あり」に付くのは、漢文の「所有」の訓読のために生じた語法か。
ゆ
- 〘 格助詞 〙 ( 体言または体言に準ずるものを受けて「より」と同様に用いられる上代語 )
- ① 動作・作用の起点を示す。時間的な場合と空間的な場合とがある。
- [初出の実例]「はしきよし 我家の方由(ユ) 雲居立ち来(く)も」(出典:日本書紀(720)景行一七年三月・歌謡)
- ② 動作の行なわれる場所・経由地を示す。時間的・空間的・抽象的な用法がある。
- [初出の実例]「伊那佐の山の 木の間由(ユ)も いゆきまもらひ」(出典:日本書紀(720)神武即位前・歌謡)
- ③ 動作の手段を示す。
- [初出の実例]「小筑波のしげき木の間よ立つ鳥の目由(ユ)か汝(な)を見むさ寝ざらなくに」(出典:万葉集(8C後)一四・三三九六)
- ④ 比較の基準を示す。
- [初出の実例]「うちなびく 春見まし従(ゆ)は 夏草の しげきはあれど」(出典:万葉集(8C後)九・一七五三)
ゆの補助注記
「書紀‐歌謡」と「万葉集」に用例が見られるのみである。語源に関しては格助詞「ゆり」の語誌を参照。
ゆ【ゆ・ユ】
- 〘 名詞 〙 五十音図の第八行第三段(ヤ行ウ段)に置かれ、五十音順で第三十七位(同音のかなの重複を含めるとき、第三十八位)のかな。いろは順では第三十九位で、「き」のあと、「め」の前に位置する。現代標準語の発音では、硬口蓋と前舌との間を狭めて発する有声の半母音 j と母音 u との結合した音節 ju にあたる。イ段のかなに添えてウ段の拗音を表すことがある。現代かなづかいでは拗音の場合「ゆ」を小文字で添える。「ゆ」の字形は、「由」の草体から出たもの、「ユ」の字形は、同じく「由」の末二画(中のたて画と下の横画)からできたものの変形である。ローマ字では、yu と書く。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
普及版 字通
「ゆ」の読み・字形・画数・意味
15画
[字音] ユ
[説文解字]
[字形] 形声
声符は兪(ゆ)。〔説文〕四上に「夏羊の牡をと曰ふ」とあり、〔爾雅、釈畜〕も同説であるが、〔段注〕〔懿行義〕によって牝と改めるのがよい。美しく大事なものとされ、〔左伝、僖四年〕に「之れを專らに(専愛)せば渝(かは)り のを攘(ぬす)まん」という占いの辞を載せている。
[訓義]
1. くろひつじのめす。
2. うつくしいもの。
3. 山の神。
[古辞書の訓]
〔字鏡集〕 ヒツジ・ヲヒツジ
[下接語]
攘
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
ゆ
五十音図第8行第3段の仮名で、平仮名の「ゆ」は「由」の草体から、片仮名の「ユ」は「由」の終画からできたものである。万葉仮名では「由、遊、喩、愈、瑜、踰、臾(以上音仮名)、湯(訓仮名)」などが使われた。ほかに草仮名としては「(由)」「(遊)」「(游)」などがある。
音韻的には/ju/で、舌面と歯茎硬口蓋こうがいとを狭めて発する摩擦音[j]を子音にもつ(母音の[i]と非常に近い音なので半母音ともいう)。
[上野和昭]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
世界大百科事典(旧版)内のゆの言及
【ユムシ(螠)】より
…ユムシ動物門Echiuraに属する無脊椎動物の総称,またはこのうちの1種を指す(イラスト)。すべて海産で,浅い海底の砂泥中にU字状やJ字状,または不規則な形の穴を掘って,その中に生息したり,またサンゴ礁の間の砂地や死んだサンゴ礁の中などにもすむ。…
※「ゆ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」