日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヨウ素酸」の意味・わかりやすい解説
ヨウ素酸
ようそさん
iodic acid
ヨウ素のオキソ酸の一つ。ヨウ素を発煙硝酸または塩素酸水溶液と加温してつくる。あるいは五酸化二ヨウ素I2O5を水に溶かしてつくる。特異臭のある無色の結晶。加熱すると、約70℃から脱水が始まり、110℃で融解してHI3O8(比重4.734)となり、220℃で五酸化二ヨウ素I2O5になる。光で徐々に分解する。吸湿性はない。水100グラムに310グラム溶ける(16℃)。水溶液は酸性で、強い酸化剤である。ヨウ素酸塩MIIO3は、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物溶液にヨウ素を加えて熱するか、塩素酸塩水溶液にヨウ素を反応させてつくる。一価金属塩はナトリウム塩(五水和物)のほかは無水塩で、二価金属塩には無水塩、一水和物、二水和物、四水和物がある。塩素酸塩や臭素酸塩より安定であるが、酸化力が強く、炭素、有機物と混ぜて熱すると爆発する。ヨウ化水素を酸化してヨウ素と水にする。
HIO3+5HI3I2+3H2O
水溶液は硝酸銀、塩化バリウム、酢酸鉛で無色の沈殿を生じる。ヨウ素酸カリウムKIO3の標準液を用いる酸化滴定はヨウ素酸塩滴定とよばれ、ヨウ化物、亜ヒ酸塩、タリウム(Ⅰ)塩、ヒドラジンなどの定量に用いられる。
ヨウ素のオキソ酸にはその他、過ヨウ素酸、オルト過ヨウ素酸、次亜ヨウ素酸などがある。オルト過ヨウ素酸は化学式H5IO6。オルト過ヨウ素酸バリウムBa3H4(IO6)2の水溶液に濃硝酸を加えてつくる。無色の単斜晶系の結晶。潮解性。水、エタノール(エチルアルコール)によく溶け、水100グラムに112グラム(25℃)溶ける。五塩基酸であるが強酸ではない。熱すると約132℃で融解し、水を失って過ヨウ素酸HIO4となる。過ヨウ素酸はメタ過ヨウ素酸ともよばれ、無色の固体。吸湿性。熱すると110℃で昇華し、138℃でI2O5となる。過ヨウ素酸塩には、オルト酸塩MI5IO6、メタ酸塩MIIO4のほか二メソ酸塩MI4I2O9、メソ酸塩MI3IO5、二オルト酸塩MI8I2O11など複雑な組成のものが多い。ヨウ素酸塩のアルカリ性溶液を、塩素または電解により酸化してつくる。一般にオルト酸塩がメタ酸塩より安定である。
次亜ヨウ素酸HIOは水溶液としてのみ存在する。ヨウ素の水溶液を酸化水銀(Ⅱ)と振って得られる。弱酸。次亜ヨウ素酸塩は遊離の酸よりやや安定であるが、水溶液としてだけ知られ、酸化力、漂白作用が強い。
[守永健一・中原勝儼]