日本大百科全書(ニッポニカ) 「マクロライド系抗生物質」の意味・わかりやすい解説
マクロライド系抗生物質
まくろらいどけいこうせいぶっしつ
macrolide antibiotics
細菌に対して広範囲に効果を発揮する抗生物質。大きな(macro)ラクトン環をもつ(-olide)抗生物質の意味でこの名がつけられた。グラム陽性菌、グラム陰性菌、非定型菌などに効果を発揮するが、嫌気性菌への作用はやや劣る。適応は、肺炎、インフルエンザ、百日咳(ひゃくにちぜき)、カンピロバクター腸炎、マイコプラズマ肺炎、クラミジア感染症、リケッチア、レジオネラ症などのほか、気管支炎、中耳炎や副鼻腔(ふくびくう)炎、咽頭(いんとう)炎や喉頭(こうとう)炎などにも使用される。またペニシリンアレルギー患者に対する代替薬としても用いられる。
細菌のタンパク質を合成するリボソームを阻害することによって増殖を抑えるように働く。マクロライド系抗生物質には、開発順にエリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなどの種類がある。かつてはエリスロマイシンが多く使われていたが、下痢や腹痛など消化器症状の副作用も少なく、胃酸などの影響をあまり受けずに吸収され、作用時間も長いクラリスロマイシンやアジスロマイシンが新たに開発されてより多く使われるようになった。ノーベル医学生理学賞を受賞した大村智(おおむらさとし)が発見したエバーメクチンをもとに、アメリカの製薬会社が寄生虫駆除薬として開発したイベルメクチンもマクロライド系抗生物質で、この薬はオンコセルカ症の特効薬としてよく知られる。
マクロライド系抗生物質は抗生物質のなかでも副作用が比較的少ないため、小児から高齢者まで広く多用される傾向にあるが、そのため薬剤耐性をもつ耐性菌の増加が問題となっている。また一つの抗生物質に対する耐性が獲得されると、他の抗菌薬に耐性が及ぶ交叉(こうさ)耐性をもつため、乱用は避けるべきである。ほかの薬剤との薬剤相互作用は少ないとされるが、気管支拡張薬のテオフィリン、カルバマゼピンなどの抗てんかん薬、ワルファリンなどの抗凝血薬、シクロスポリンなどの免疫抑制薬などとの併用は注意が必要である。
[編集部 2016年5月19日]