ラテン・アメリカの原住民の擁護と復権の運動。これをインディヘニスモと命名し,その性格を規定したのはペルーの思想家J.C.マリアテギであった。彼は〈原住民の問題とは社会問題であり,かつ優れて土地問題である〉といい,その運動の主目的は土地の奪回であり,原住民共同体の積極的な再建である,と主張した。しかしながら,今日では,この運動は原住民社会の歴史発展の諸段階や居住空間などの制約,諸国家の階級的性格などに規定されて,それぞれに照応する運動が展開されている。その主要なものに原住民的なものの再評価とその高揚や各種の性格の原住民共同体の復権(体制内的,純血主義的,社会主義的など)などがある。
この運動は,原理的には全ラテン・アメリカで展開されうる運動であるが,実際には,新大陸発見以前に比較的高度の社会発展をとげていた地域,例えばメキシコ,ペルー,ボリビアなどで活発に展開されてきた。歴史的には,この運動の中核をなす原住民の擁護・復権の問題は,16世紀のスペインの新大陸侵略とともに生起した。新大陸の西欧的開発は原住民を犠牲にして遂行された。その初期におけるこの運動の担い手は,主としてラス・カサスらの宗教関係者であった。独立後,イギリスの主導のもとに,資本主義経済が発展し,原住民共同体の破壊が進行したが,特に19世紀末,欧米諸国の強烈な資本進出が始まって以来,事態はきわめて深刻なものとなった。ペルーでのこの運動は,こうした政治経済状況を反映して,民族国家や原住民共同体の将来を危惧する中産階層(M.ゴンサレス・プラダ,J.ブスタマンテ,J.カペロら)が国民経済の形成や民族国家を志向していく中で展開されたが,運動は概して政治,法律,教育などの側面に限定されていた。20世紀になり,この地域が世界の資本主義構造にさらに大きく包みこまれていく中で,マリアテギは前記のように問題の本質を明確にしたが,社会主義的復権運動の理論構築が十分になされないまま夭折したため,1930年代になると運動は停滞した。以後の運動は国家の体制内に位置づけられ,従来どおり教育,社会福祉などに限定されることになる。一方メキシコでは革命を契機に,この問題はE.サパタを中心とした共同体農民により,共同体的復権に依拠した解決を見るかと思われた。しかし,革命の性格がブルジョア的方向へ転換されたため,運動は憲法にいう努力目標へと収斂されることになり,のち国家体制への統合運動となっていった。しかし,1960年代より,独占的資本主義への広範な従属が生じる過程で,再度原住民共同体が破壊され,多くの成員が都市へと流出し,膨大な失業者群を形成するに至った。こうした状況下で,運動は再びマリアテギ的方向を求めて蘇生した。ところでインディヘニスモの運動は政治的手段だけでなく,常に絵画,音楽,文学,民族学,言語学などをも動員して展開され,それぞれの分野で著名な運動家を生んでいる。絵画におけるタマヨ,シケイロス,文学におけるJ.M.アルゲダス,J.イカサなどがそれである。
執筆者:上谷 博
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…キトに生まれ,医学への志を半ばにして文学に転向,大土地所有者や都市の特権階級の搾取と横暴に苦しむ原住民の救済と保護を訴え,大地主,僧侶,政治ボスなどを告発・糾弾した。1934年に発表された《ワシプンゴ》はこうしたインディヘニスモ文学の礎石となるものである。ほかに《街路にて》(1935),《チョロ》(1938),《ワイラパムシュカス》(1948),《チョロの女,ロメロとフローレス》(1958)などの作品がある。…
…特に太平洋戦争(1879‐83)中は,リマからチリ占領軍が撤退するまでは自宅を一歩も出なかったほどの愛国者として有名で,敗北の原因を軍人,大地主,商人といった寡頭的支配体制の責任として鋭く糾弾した。また多数を占めるインディオ住民こそが国の基盤を形成すべきであるとして,その復権を国の制度的民主化とともに唱え,ペルーのインディヘニスモ運動の先駆的存在となった。彼の時代には孤立していたが,その知的遺産は,後に改革を担うべく登場するアヤ・デ・ラ・トーレやマリアテギに強い影響力となって引き継がれた。…
…このようなメキシコ文化の創造の一つとして,バスコンセロスなどの哲学者による〈メキシコ的なもの〉の探求もあげられる。またインディオ的なものがメキシコのルーツの一つであるとみなされ,先住民が築いた古代文明に対する関心が高まったり,貧しい生活を強いられているインディオの向上を図る〈インディヘニスモ〉が活発化したりした。しかしながら,このインディヘニスモは,インディオを国民文化に統合することを目標としたものであった。…
※「インディヘニスモ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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