ランジュバン(読み)らんじゅばん(その他表記)Paul Langevin

デジタル大辞泉 「ランジュバン」の意味・読み・例文・類語

ランジュバン(Paul Langevin)

[1872~1946]フランス物理学者ジョリオ=キュリーの師。物質磁性を研究し、常磁性体反磁性体理論を立てた。また、第二次大戦中は反ナチスレジスタンス指導戦後教育改革尽力。著「科学教育論」。

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精選版 日本国語大辞典 「ランジュバン」の意味・読み・例文・類語

ランジュバン

  1. ( Paul Langevin ポール━ ) フランスの理論物理学者。物質の磁性を研究。常磁性反磁性の理論などを立てた。また、第二次世界大戦中は反ナチスのレジスタンスを指導、戦後は教育に尽力した。主著「科学教育論」。(一八七二‐一九四六

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ランジュバン」の意味・わかりやすい解説

ランジュバン
らんじゅばん
Paul Langevin
(1872―1946)

フランスの物理学者。パリに生まれる。物質の磁性に関するランジュバン関数ブラウン運動についてのランジュバン方程式などで広く知られる。高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリュール)卒業後、ケンブリッジ大学に学び、ラザフォードらとともにJ・J・トムソンの教えを受ける。帰国後、ソルボンヌ大学(パリ大学)で、P・キュリーの下で研究。1902年コレージュ・ド・フランスの教授となる。科学アカデミー会員。

 当初の研究は、気体中のイオンの挙動に関するものであり、それで学位を取得(1902)、1905年には大気中のランジュバン・イオンを発見した。実験のいくつかはエッフェル塔の上で行われた。彼の名を著名にしたのは、その名でよばれる、同年発表された磁性理論である。それは、磁化電子を仮定し、古典統計力学的に取り扱って、常磁性気体の磁化と温度との関係を導いた。このとき導入されたのがランジュバン関数であり、一般に磁性体誘電体などの理論でみられるものである。以上の理論は、強磁性体の場合のランジュバン‐ワイス理論といわれるものに発展する。ランジュバン理論は今日の磁性体論、誘電体論などへの出発点を与えるものである。

 彼の業績で今日なお直接に重要な役割を果たしているのが、ブラウン運動に関する理論(1908)であり、そこで提起された粒子のブラウン運動を記述する確率的な運動方程式としてのランジュバン方程式は、非平衡統計力学において今日つねに取り上げられるものである。彼は相対性理論にも重大な関心を寄せ、1906年にアインシュタインと独立に、質量とエネルギーの同等性についての関係を打ち立てている。

 ランジュバンは第二次世界大戦中、反ナチスのレジスタンス運動に加わり、戦後フランスの再建にあたって、彼のたてた民主的教育改革案は「ランジュバン‐ワロン教育改革案」として死後広く知られるものとなった。

[荒川 泓]

『ランジュバン著、竹内良知・新村猛訳『科学教育論』(1961・明治図書出版)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ランジュバン」の意味・わかりやすい解説

ランジュバン
Paul Langevin
生没年:1872-1946

フランスの物理学者。パリの生れ。パリ物理化学学校,エコール・ノルマル・シュペリウールに学び,1897年から1年間,イギリスのキャベンディシュ研究所でJ.J.トムソンの指導の下にX線による電離現象の研究を行った。1902年,電離された気体の研究によりパリ大学で学位を取得,その後コレージュ・ド・フランスの講師となり,09年に物理学教授となった。かたわら,1904年からP.キュリーの後任としてパリ物理化学学校でも教え,のちには校長を兼任,28年にはH.A.ローレンツの後任として,ソルベー会議の議長もつとめた。常磁性と反磁性の研究で知られ,常磁性の磁化率を表す関数(ランジュバン関数)を導入,このほか気体や液体や誘電体中でのイオンの研究,ブラウン運動に関する研究もある。第1次大戦中には,潜水艦探知用の音波探知機の開発にも従事した。

 彼は政治や社会に対しての関心も強く,1900年にはドレフュス事件に抗議し,その後権力の横暴や弾圧とたたかうための人権擁護連盟を組織,またナチスの迫害に苦しむアインシュタインに激励のメッセージを送る運動を提唱した。さらに反ファシズム知識人監視委員会を建設するなど反ファシズム闘争を組織し,人民戦線結成にも大きな役割を果たした。第2次大戦中はドイツ占領軍によって逮捕され,トロアで3年間の軟禁生活を強いられたが,その間に,気体のイオン化に関する理論研究や教育改革案の作成などを行った。44年F.ジョリオたちの説得によってスイスに逃れ,同年のパリ解放直後に帰国,ナチスによって銃殺された娘婿のJ.ソロモンの遺志を継いで共産党に入党,以後は生涯の仕上げの事業として教育改革準備国家委員会の指導に全精力をそそいだ。
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百科事典マイペディア 「ランジュバン」の意味・わかりやすい解説

ランジュバン

フランスの物理学者。1909年コレージュ・ド・フランス教授。X線による電離現象,反磁性常磁性を研究(1905年),常磁性の磁化率を表すランジュバン関数を導入。アインシュタインの特殊相対性理論を支持して普及につとめ,第1次大戦中は潜水艦探知のため超音波の技術を開発。第2次大戦ではナチスの収容所からスイスへ脱出,フランス解放運動に活躍。1945年,戦後のフランス教育改革のための委員会(ランジュバン委員会)の議長となり,今日のフランス教育制度の礎石を築く。
→関連項目ワロン

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ランジュバン」の意味・わかりやすい解説

ランジュバン
Langevin, Paul

[生]1872.1.23. パリ
[没]1946.12.19. パリ
フランスの物理学者。パリ大学卒業後,ケンブリッジ大学に留学。コレージュ・ド・フランス教授 (1904) ,パリ大学物理化学研究所所長 (25) 。物質の磁性について多くの研究を行い,1905年統計力学を用いて,常磁性体の磁化率と温度の関係 (キュリーの法則) の理論づけに成功。また原子内電子のふるまいによって常磁性と反磁性を説明。同年大気中にあるランジュバン・イオンを発見。またブラウン運動の研究を行う。 17年超音波の発生および検出に着手し,超音波探知器への道を開いた。第2次世界大戦中はレジスタンス運動に参加した。

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世界大百科事典(旧版)内のランジュバンの言及

【磁気】より

…すなわち反磁性は磁石を近づけると反発される物質であり,常磁性は磁石に引きよせられる物質である。そして1895年にP.キュリーは前者の磁化率はほとんど温度に対して不変であるのに対して,後者の磁化率は絶対温度に反比例して,低温になるほど増大することを発見し,1905年この常磁性磁化率の温度変化は,P.ランジュバンによって分子磁気モーメントが熱振動するという考えで理論的に導かれた。そして,07年P.ワイスは強磁性体では分子磁気モーメントは周囲の分子から強力な分子磁場を受けて互いに平行に配列し,いわゆる自発磁化を形成することを理論的に示した。…

【超音波】より

…コウモリが超音波を使って障害物の位置を検知し,暗いところでも自由に飛び回ることができるのはよく知られているが,これと同様に,水中に放射した超音波の反射音を利用して海底の地形測量を行ったり,潜水艦や魚群の位置を探知することができる。第1次世界大戦のころ,フランスのP.ランジュバンが水晶を使った超音波送受波器を開発したのが実用化の始まりで,現在では,こうした装置をソナーと総称している。水中では電波を利用することができないので,超音波を使ったソナーは,空気中のレーダーのような役割をもった重要な装置になっている。…

【反ファシズム】より

…フランスでは33年以来のスタビスキー事件を通じて政界の腐敗が危機感を煽りたてていたが,ナチスによるドイツ制覇に連動して,2月6日極右派が民衆を扇動し共和制打倒の一大騒擾事件をパリで引き起こしたのである。これに対して労働組合をはじめとする左翼勢力は共和制擁護のためゼネストをもって応え危機を一応脱しはしたが,この事実は多くの知識人に危機意識を抱かせ,人類学者ポール・リベ,物理学者ランジュバン,哲学者アランの提唱により3月に〈反ファシスト知識人監視委員会〉が組織され,ジッド,マルローはじめ,アラゴン,ニザン,ブルトン,ゲーノ,R.マルタン・デュ・ガール,バンダら,1200名の知識人が参加したのであった。この委員会はなお対立を続けていた社共両党の協力を説き,事実上人民戦線結成の触媒の役割を果たした。…

【ブラウン運動】より

… ブラウン運動の理論はさらに,確率過程の例題として,より美しい数学的形式にみがき上げられていく。ポーランドのM.vonスモルコフスキー,ドイツのフォッカーAdriaan Daniël FokkerおよびM.プランク,フランスのP.ランジュバンによって発展され,さらにのちにはN.ウィーナーにより確率過程の数学の一部門にもなっていく。フォッカー=プランクの方程式は微粒子の位置と速度の確率分布関数がみたすべき方程式であり,ランジュバン方程式は微粒子の運動方程式で,速度の減衰項や外力(重力)のほかに,ランダム・ノイズとしてのゆらぐ力を含んでいる。…

※「ランジュバン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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