スパルタの伝説的な立法者。ヘロドトス,プルタルコスその他の伝承によれば,前11~前8世紀の間におかれる。アギス,エウリュポン2王家のいずれかに属し,クレタ,エジプト,イオニア地方などを旅行して各地の国制を研究し,長い党争と混乱の中にあった祖国に帰ると,貴族を味方につけて党争を抑え,国制の大綱を規定した〈大レトラ〉と呼ばれる神託をデルフォイからもたらして,秩序の回復に成功した。さらに土地の再分配を断行して貧富の差を取り除き,金銀貨の代りに鉄貨の使用を強制して交換経済の発展を防ぎ,一定の仲間と夕食を共にする共同食事の制度を設け,成文法の作成を禁じ,虚弱な赤児は父親にその遺棄を命じ,7~30歳の男子に集団寄宿生活による厳しい訓練を施し,優秀な男性が優れた人妻をその夫と共有することを認めるなど,広範な改革を推進した。政治,経済,社会,教育など多方面にわたる改革が根づいたのをみて,自分が帰国するまで現行の制度を改変しないことをすべての人に誓わせたうえで外国に旅立ち,旅行先で断食して死んだという。
伝承における矛盾,錯誤,虚構の混在が,正確なリュクルゴス像を描き出すことを困難にしている。エウリュポン家の一員で,前800年ごろ長期の党争を鎮め,〈大レトラ〉が輪郭を示すような貴族政のもとにポリスを成立させた偉大な立法者とすることが,一つの可能な解釈であるが,前7世紀後半の民主的な改革者とみる説や,元来は新制度を守護する神であったものが,のちにその制度の創設者に変じたと解して,彼の実在性を否定する説もある。また伝承が彼に帰している諸制度は,古い氏族制社会の慣習や,その後のさまざまな時期に導入された規定が,ただちにあるいは徐々に定着し,最終的には前500年ごろまでに整えられて,重装歩兵市民団によって担われる民主政の崩壊を阻止する機能を果たすに至ったものと考えられる。
執筆者:清永 昭次
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他のポリスと甚だ違ったスパルタ特有の国制や市民の生活様式を定めた立法家とされる伝承上の人物。前9世紀末の王族の出と伝えられるが,19世紀以来その実在を否定する説が強い。彼の「立法」には,前6世紀前半にスパルタが封鎖化し,軍国主義が強化された頃までに形成された諸制度が反映されている。
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…スコットランドではハローウィーンの晩に若い男女が目隠しをして畑に出かけ,手当りしだいに取ってきたキャベツの根を見て,〈土が付いていれば恋が実る〉というように結婚運を占う習慣があった。キャベツが酒の酔いをさますといわれるのは,スパルタの立法者リュクルゴスが酒神ディオニュソスのブドウ畑を荒らして制裁を受けたとき,ブドウづるで縛られた悔しさに涙を落とした場所からキャベツが生えたという伝承によっている。【荒俣 宏】。…
…こうしてギリシア随一の強国となると,現状維持を目的とした反僭主政策を採用して,前510年にはアテナイのペイシストラトス家の僭主政を打倒した。
[国制と生活様式,文化]
スパルタの国制や市民の生活規範は,リュクルゴスが定めたとされている。彼とその制度については,まだ定説はないが,大レトラをみると,ポリス成立期には2王制,長老会,最終決定権を有する民会という国家機関が存在した。…
…彼はまず小アジアを征服,ここで獲得したおもに女性からなる熱狂的な信者たち(バッカイBakchai〈バッコスの信女〉,マイナデスMainades〈狂乱の女〉などと呼ばれる),またいつも彼につき従うサテュロスやシレノスSilēnosなどの山野の精を引き連れて,次はギリシアへと歩を進めた。途中,トラキアでエドネス族の王リュクルゴスに迫害されたのを皮切りに,ギリシアの各地で妨害を受けたが,それらはいずれも彼の神威の前には空しい抵抗にすぎなかった。エウリピデスの悲劇《バッコスの信女》(前405上演)は,彼が従兄ペンテウスPentheusの治めるテーバイに来たときのできごとを描いたもので,それによれば,王の母アガウエAgauēをも含むテーバイの女たちが狂乱の信者の仲間に加わって,松明やテュルソスthyrsos(蔦(つた)を巻き,先端に松笠をつけた杖)を振りまわしつつ山野を乱舞し,陶酔の極に達するや,野獣を引き裂いてくらうなどの狂態を示すに及んだとき,彼の神性を認めようとしないペンテウスは,これを阻止せんとして,かえって母親たちにキタイロンの山中で八つ裂きにされたという。…
※「リュクルゴス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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