ドイツの人文主義者、古典学者、法律家、詩人、とくにヘブライ語学者。メランヒトンの大伯父。フライブルク、パリ、バーゼルで学び、ギリシア・ラテン的な人文主義的関心を深めた。法律家としてイタリアに赴き、フィチーノ、ピコと友情を結ぶ。そこでユダヤ教への興味を喚起され、カバラ(ユダヤ教の聖書の神秘的解釈法)に傾倒、ヘブライ語を研究、その文法・辞典を著した。これは旧約聖書学にとって画期的基礎づけとなった。また人文主義の視界をヘブライ語の世界にまで広げるものであった。当時の焚書(ふんしょ)にまで及ぶ極端な反ユダヤ運動に激しく反対し、ローマ教皇にも批判的であったが、ルターの宗教改革は支持しなかった。晩年、インゴールシュタット大学、チュービンゲン大学のギリシア語・ヘブライ語教授を歴任。
[常葉謙二 2018年8月21日]
ドイツの人文主義者,ヘブライ語学者。人文主義者,宗教改革者メランヒトンの大伯父にあたる。フライブルク,パリ,バーゼルで学んで人文主義に関心をもつようになり,その影響はオルレアン,ポアティエでの法学研究によって深められ,ビュルテンベルク伯エーベルハルトに同行したイタリア旅行(1482)で決定的となった。この伯に仕えて政治生活に入るが,同時にイタリアの人文主義者たちの感化により,アルプス以北の新プラトン主義の代表者となる。政治を離れ,ラテン語,ギリシア語からヘブライ語へと研究を進め,ヘブライ語文法書やユダヤの神秘思想カバラの研究書などを著して,ドイツにおけるヘブライ学の基礎を定めた。これらの研究とユダヤ人弁護は反ユダヤ主義者やローマとの争いに至り,ローマに対しては在俗司祭となることで和解するが,一方では人文主義者の圧倒的な支援を受けた。人文主義者グループの手で《無名人の手紙》が著されたのはこのときである。晩年はインゴルシュタットとチュービンゲンで教え,その地で死去。
執筆者:徳善 義和
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1455~1522
ドイツの人文主義者。古典研究をヘブライ語の分野にまで拡張し,画期的な『ヘブライ語入門』(1506年)を著した。ユダヤ人保護の問題をめぐるカトリック教会当局との闘争でも有名。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…フィレンツェではフィチーノがプラトンや新プラトン主義者たちの著作の翻訳を通じて,その弟子ピコ・デラ・ミランドラがヘブライ語=カバラ研究を通じて,それぞれ古代の隠された知をよみがえらせ,ルネサンス芸術の理論的支柱を提供した。北方ではピコの盟友ロイヒリンやトリテミウスの後をうけて,ネッテスハイムのアグリッパが,中世を通じてスコラ学的に形骸化され,わずかに悪魔学や天使学に退化した姿をとどめるのみだったオカルティズム理論を,錬金術や占星術のような自然界に依存する分野にはじめて適用した(《隠秘哲学》1531)。これ以後パラケルススが医学,錬金術,薬草学のような自然学の基盤の上に秘密の知を展開して,近代オカルティズム成立へと大きく転回せしめた。…
…作者は匿名であるが,だいたいエルフルト大学の学徒クロトゥス・ルビアヌスCrotus Rubianus(本名イェーガーJohannes Jäger,1480ころ‐1545ころ)やフッテンらと考えられる。その機縁をなしたのは,改宗ユダヤ人フェッファーコルンJohannes Pfefferkorn(1469‐1522か23)のユダヤ教徒迫害と,これに対抗して学問的な見地からユダヤ教学の保全と古文書研究をまもろうとした人文主義者ロイヒリンとの抗争であった。フェッファーコルンは皇帝マクシミリアンの助けを仰ぎ,また自分の入信したドミニコ会の強い支持と,ケルン大学神学部を主とするがんこな神学者たちの支持を得,しばしば強行手段に訴えてユダヤ書の破棄や没収を企て,これをはばもうとするロイヒリンを迫害し,ついにはローマ教皇庁に訴えた。…
※「ロイヒリン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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