改訂新版 世界大百科事典 「アツモリソウ」の意味・わかりやすい解説
アツモリソウ (敦盛草)
(large flowered)lady's slipper
Cypripedium macranthum Sw.
大型の袋状の花が印象的な地生のラン科植物。亜高山帯の草原または疎林中に生え,時に観賞用にする。根茎は短くはう。根は多数で,かたい。茎は高さ30~50cm,白色の毛がある。葉は3~5枚が互生し,楕円状披針形,長さ10~20cm,幅4~8cm,表面の縦じわが顕著である。苞は葉状で小型。6~7月,3cmくらいの花梗の先に1花をつける。花は淡紅色または紅紫色,長さ4~6cm。上萼片は広卵形,側萼片は癒合しており先端が2裂する。花弁は卵形から狭卵形。袋状の唇弁は花弁より少し短い。稔性のあるおしべが2本,稔性のない仮雄蕊(かゆうずい)が1個あるのは,この属の大きな特徴である。北海道,本州(中部以北),さらに朝鮮,中国東北,中国北部,シべリア,カムチャツカ,旧ソ連西部に分布する。
同じ属のクマガイソウC.japonicum Thunb.は花が淡黄緑色。葉が扇状円形で,2個がほぼ対生につく点が特徴である。低山帯の竹林などの林下に生え,時に群生する。コアツモリソウC.debile Reichb.f.は,全体小型で,卵形の光沢のある葉が対生状につき,花は垂れ下がって咲く。温帯の林床に生える。キバナノアツモリソウC.guttatum Sw.var.yatabeanum (Makino) Pfitz.は楕円状披針形の葉がやや対生状につき,針葉樹林の林床にまれに生える。カラフトアツモリソウC.calceolus L.は最近北海道で発見された。
アツモリソウ,クマガイソウの和名は袋状の唇弁をそれぞれ平敦盛,熊谷直実の母衣(ほろ)に見立てたものである。
執筆者:井上 健
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報