翻訳|ananas
単子葉植物パイナップル科の多年草の総称。花や葉がきれいなため多くの種が観賞用に栽培されている。多くは短い茎に半円筒状で鋸歯のある硬質の葉を放射状にむらがりつける草本。しばしば葉の基部は相互に抱きあい貯水槽(タンク)を形成し,葉の表面に生えた多細胞の楯状の毛(吸収毛)が,貯水槽や雨水から水分や養分を吸収する役割をする。花序には宿存性の美しい色の苞葉が発達することが多い。花は3枚の宿存する外花被片と,開花後は枯れ落ちる花弁状の3枚の内花被片を有する。おしべは6本。子房は上位または下位で3室,多数の種子を中軸胎座につける。果実は蒴果(さくか)か液果,種子は小さい。
アナナス属Ananasをはじめ約50属2000種が中南米の熱帯を中心に,北アメリカの南部まで分布し,ただ1種Pitcairnia felicianaだけがアフリカ西部に分布している。根の発達は悪いが,そのかわり着生型の生活によく適応した貯水槽や葉の表面の吸収毛が発達していて,多くの種が樹上着生生活をしているし,土壌の発達の悪い岩石地にも生育する。なかには根をほとんどなくして樹枝からたれさがり,空中の湿気のみで生育するサルオガセモドキTillandsia usneoidesのように特殊化した種もある。
アナナス類は,胚乳を有する種子,放射状の3数性で外花被片と内花被片が分化した花,3室からなる子房に多数の種子を中軸胎座につけることで特徴づけられているだけでなく,楯状の多細胞からなる吸収毛があるのも特徴である。単子葉植物のなかではホシクサ科,ツユクサ科などに類縁がみとめられているが,花の構造は放射相称でより原始的と考えられる。パイナップル科Bromeliaceaeは果実と種子の特徴から3亜科に分類される。すなわち果実が乾果(蒴果)で裂開し,葉は通常鋸歯を有し,地上生や岩上生のピトカイルニア亜科Pitcairnioideae,前者と果実は似ているが種子に毛状の突起があり,葉縁は通常鋸歯がなく,着生種の多いティランドシア亜科Tillandsioideae,および子房の部分が合着し,液果になり,種子には突起を欠くブロメリア亜科Bromelioideaeである。
アナナス類の原始的な生活型は地上生で,多数の花を穂状につけるものから,着生で貯水槽のよく発達し,重なった苞片につつまれた花序をつける群,さらには花数が減少して数個から1個になる群といった着生生活への適応の方向と,パイナップルに代表されるような相互に合着した子房を有する球状の花序を生じる群の二つの方向に分化してきたと推定されている。とくに多くの種が分化しているのは,貯水槽を発達させた群である。アナナス類の貯水槽はただ水分の補給だけでなく,そこに落ちこんだ昆虫の死骸や枯葉が分解されて,養分として利用される。またボウフラや線虫の生活場所ともなり,特別な共生世界を形成し,ときにはマラリア病原虫を媒介するハマダラカの仲間の発生場所ともなる。
パイナップルの球状の花序は熟すと多汁質になり,熱帯での重要な果物であるだけでなく,その葉の繊維が利用される。葉の繊維はパイナップルのほかにも,葉が長大な種のいくつかで利用されている。またサルオガセモドキは乾燥してまくらなどの詰物にされる。
葉は白粉状のろうをかぶったり,毛を有しているほかに,濃緑や紫赤色の斑紋を有する種があり,また種によっては金属的な光沢があり美しいので,観葉植物として重要で,さらに宿存する花序の苞は赤色や黄色の色彩を有することが多く,開花後も数週間以上その美しさを楽しむことができる。花も小さいが美しいものが多い。アメリカには数百種以上が,また日本にもたぶん300種以上の野生種が観賞用に導入され栽培されている。
日照不足にもよく耐え,草姿も整っており,室内園芸に適している。繁殖能率もよく,じょうぶで育てやすいので,観葉鉢物としての栽培が多い。エクメア,インコアナナス,クリプタンサス,ネオレゲリア,ティランドシアなどが日本で多く栽培されている。実生繁殖するものもあるが,多くは小苗を株分けする。アナナス類はエチレン処理による開花促進が可能で,エクメア・ファッシアータなどは,ほとんど周年出荷される。
執筆者:堀田 満+高林 成年
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