改訂新版 世界大百科事典 「アメリカの息子」の意味・わかりやすい解説
アメリカの息子 (アメリカのむすこ)
Native Son
アメリカの黒人作家リチャード・ライトの代表作で,アメリカ黒人文学をはじめて世界文学の水準にまで高めた意義をもつ。1940年刊行。運転手として雇われていた20歳の黒人青年ビガーは,白人の金満家ダルトン家の令嬢を,不幸な偶然から誤って殺害し,その死体を炉で焼く(第1部〈恐怖〉)。犯行が発覚し,逃走中に黒人の女友だちをも殺害,追いつめられて逮捕される(第2部〈逃走〉)。ビガーを裁く法廷で,共産党員の弁護士マックスは,ビガーの犯罪がアメリカ社会そのものの犯罪であることを鋭く論証しようとするが,結局は死刑の判決が下る。ビガーは1個の人間として社会の実相とそのなかの自分が見えはじめたとき死ぬことになる(第3部〈運命〉)。差別される黒人の側からアメリカ社会を告発した,いわゆる〈抗議小説〉の最高峰ともいうべき作品である。
執筆者:浜本 武雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報