翻訳|argon
周期表第18族に属し、希ガス元素(貴ガス元素)の一つ。原子番号18、元素記号Ar。空気から化学反応によってその成分を除いていくと最後に化学反応性のない不活性気体が残ることは、18世紀すでにイギリスのキャベンディッシュが気づいていた。1894年レイリーとラムゼーは、空気から酸素を除いて得た窒素の比重が、窒素化合物を分解して得た窒素の比重より大きいことに着目しアルゴンを分離した。アルゴンはそれまで知られていた元素と異なり、化学反応性をまったく示さなかったことから、ギリシア語で不活性を意味するargosあるいは働かないという意味のan ergonから命名された。通常の空気中には、体積で0.933%、質量で1.285%存在する。地殻中のカリウム40が放射壊変してアルゴン40となるため、地殻中にも存在する。液体酸素・液体窒素製造プラントから分留、精留、化学処理によって精製アルゴンがつくられ、希ガス(貴ガス)単体としてはもっとも大量かつ安価に生産されている。電球、蛍光灯、放電管などの封入ガス、金属の精錬、鋳造、溶接における保護ガス、不安定化学物質の保護ガス、ガスクロマトグラフィーの輸送用ガスとして用いられる。低圧放電管では圧力によって色が変わり、赤色および青色のネオンサインに使われる。水和物結晶8Ar・46H2Oや、キノール分子化合物Ar・3C6H4(OH)2のような包接化合物以外には安定な化合物をつくらない。
[岩本振武]
Ar.原子番号18の元素.電子配置[Ne]3s23p6の周期表18族希ガス元素.原子量39.948(1).40Ar99.6003(1)%,38Ar0.0632%,36Ar0.3365% からなり単核種に近い.質量数30~53までの放射性核種が知られている.1894年,W. Ramsay(ラムゼー)とJ. Rayleighによって発見され,不活性なところから怠け者を意味するギリシア語αργοσをとって命名された.大気の9340体積 ppm を占める.火星の大気中にも1.6%Arが含まれる.液体空気の分留によって単体が得られる.精製は,分留の反復,アルカリ金属との加熱(窒素,酸素の除去),活性炭による分別吸着,分別蒸発,ガスクロマトグラフィーによって精製される.無色,無臭の気体.融点83.8 K(-189.3 ℃),沸点87.28 K(-185.87 ℃).臨界点150.86 K(-122.3 ℃).4.898 MPa(48.35 atm).13.41 mol L-1(0.5356 g mL-1).三重点87.78 K.液体の密度34.93 mol L-1(1.393 g mL-1)(沸点).蒸発熱6.516 kJ mol-1(沸点).第一イオン化エネルギー1520.4 kJ mol-1(15.760 eV).化学的には不活性である.ヒドロキノンと[C6H4(OH)2]3・0.67Ar,水と6H2O・Arの包接化合物をつくる.アーク溶接,チタン,半導体用ケイ素,ゲルマニウム結晶製造の際の不活性雰囲気,白熱電球,蛍光灯充填ガスとして用いられる.液体は高エネルギー物理学用検出器の媒質に使われる.[CAS 7440-37-1]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
周期表第0族に属する希ガス元素の一つ。1894年イギリスのレーリー卿は,空気から酸素を除いて得た窒素が,窒素化合物を分解して得られる窒素より重いことを示し,さらにイギリスのW.ラムゼーが空気から新たな気体物質を分離して取り出し,そのスペクトルからこれが新元素であることを示した。それまでに知られていた元素とは違い,化学的にきわめて不活性で,化合物をつくらないことから,ギリシア語のa-ergon(働かない)にちなんでアルゴンと命名された。空気中に体積で0.933%,重量で1.285%含まれ,また地殻中にもカリウム40(40K)が壊変して生ずる40Arが存在する。化合物をつくらず,つねに単体として存在する。単原子分子からなる無色,無臭の気体で,減圧下で放電すると特徴のある発光スペクトルを示す(3mmHgで赤色811.35nm,さらに減圧下では青色434.8nmが強い)。冷却した水とは水和物結晶Ar・5.75H2O,ヒドロキノンとはAr・3C6H4(OH)2のような結晶のクラスレート化合物をつくる。液体空気の分留によって粗アルゴンを得,精留,化学処理によって残留する酸素と窒素を除去し,ボンベにつめて市販されている。ネオンサイン(赤色および青色),電球,蛍光灯,放電管などの封入ガスとして,また金属の精錬,溶接などでの保護ガスとして広く用いられる。化学実験用としては,不安定物質の保護用,ガスクロマトグラフの輸送用ガスとして用いられる。
執筆者:中原 勝儼
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