翻訳|liquid air
空気を液化したもの。液化空気ともいう。空気は長い間液化できないものと考えられてきたが、1894~1895年、ドイツのC・P・G・R・von・リンデおよびイギリスのハンプソンWilliam Hampson(1854―1926)により、それぞれ独立に考案された空気液化装置を使ってほとんど同時に液化された。これらの装置は、圧縮した空気の断熱膨張や、ジュール‐トムソン効果(ジュールの実験)により温度を下げ、臨界温度以下に冷やし、同時に加圧することにより液化するようになっている。これはさらにフランスのG・クロードによって工業的に改良され大量生産ができるようになった。液体空気が大量に製造され、さらに分留により液体窒素も容易に手に入るようになって、低温の科学、高真空の科学などが発展した。さらにその分留から、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの希ガス元素が発見された意義も大きい。液体空気はわずかに青みを帯び、常圧下の沸点は約零下190℃、比重はほぼ1である。普通の空気が窒素と酸素との混合物であるように、液体空気も液体窒素(比重0.808)と液体酸素(比重1.141)との混合物である。両者の沸点は異なる(酸素は零下182.96℃、窒素は零下195.8℃)ので、放置すると沸点の低い液体窒素のほうが先に気体になり、液体酸素の濃度が増し、青みが増すとともに比重も大きくなる。液体空気は通常、断熱容器(デュワー瓶)中に蓄える。普通の物体をこの中に入れると、零下100℃以下に冷却されるので、液体も固体になり、固体も弾力を失ってしまう。たとえば、ゴムなどは堅くなり槌(つち)でたたけば粉砕されるし、魚なども堅く凍って落とせば割れるようになる。真空系(真空装置)の一部をこの液体空気で冷やせば、系(装置)の中に存在する凝縮性の蒸気がそこに捕捉(ほそく)されるから真空度が向上する。とくに、高真空を得る目的で拡散ポンプを使用する場合や、系の部分をくぎるのにコックを用い、その潤滑剤として真空用グリースを使う場合には、系内の高真空保持に液体空気(または液体窒素)は欠かせない。現在もっとも大きな工業的用途は、分留して窒素(アンモニア合成の原料その他)を得ることであるが、同時に酸素(各種金属製錬用、医療用その他)も得られ、また各種の希ガスも分留により得られる。液体空気は、有機化合物と混ぜると爆発することがあるので注意を要する。そのため、冷媒として現在では液体空気にかわって液体窒素が用いられる。
[戸田源治郎]
空気を低温にして得られる液体。法規上では液化空気と呼ぶ。1895年C.P.G.R.vonリンデが空気を加圧して噴出膨張させることによって,空気自身の温度が降下するジュール=トムソン効果を用いて空気の液化に成功し,さらにG.クロードによって工業的に多量生産が可能になった。最近は,ヘリウム気体を圧縮ののち膨張させて低温をつくり,それを用いて空気を液化する空気窒素液化機が市販されている。その機械は小型で人手もほとんどかからず便利である。液体空気は淡い青色をした液体で,液体窒素(沸点77.3K,比重0.810)と液体酸素(沸点90.17K,比重1.144)の混合物で,比重約1,沸点約-190℃。液体空気は放置すると沸点が低く分圧が高い液体窒素が先に気化し,液体空気中の液体酸素の濃度は高くなる。この性質を利用して空気窒素液化機に分留塔をつけて液体窒素を分離,利用する。工業的には,多量の液体空気は製鉄などに利用する酸素と,アンモニア合成に用いる窒素を分離するのに用いられる。また,アルゴン,ネオンなどの希ガスも液体空気から分離して利用している。液体空気は,可燃性物質,とくにアルコール,エーテル,二硫化炭素,アセトンなどの可燃性有機溶媒,砂糖,ナフタレン,ショウノウのような可燃性有機粉末と直接触れさせてはならない。これらの有機物質が一気に酸化されて爆発の危険が高いからである。液体空気は実験室での代表的な寒剤であったが,現在では爆発の危険のない液体窒素が利用され,液体空気や液体酸素の利用は少ない。しかし,液体酸素(潜熱6820J/mol)やそれを多く含む液体空気は,液体窒素(潜熱5577J/mol)に比べ蒸発しにくいので,長持ちする寒剤としての使用には便利である。
執筆者:井口 洋夫
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空気を冷却して得られる青色を帯びた液体.青色を帯びているのは液体酸素によるものである.沸点-194 ℃.分留によって窒素,酸素,アルゴン,その他の希ガスを得るのに使われる.かつては低温用の冷却剤として用いられたが,有機物が凝縮して混入すると爆発の危険があるので,現在は冷却剤としては液体空気を分留して得られる液体窒素が用いられている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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