モモの近縁種で仁を食用とするバラ科の落葉果樹。園芸上は堅果(殻果)類に属する。ヘントウ(扁桃),ハタンキョウ(巴旦杏),アメンドウともいわれた。アジア西部の原産。有史前に南ヨーロッパや北アフリカに伝わったといわれ,夏季に雨の少ない地域で温暖な風土に適する。地中海沿岸諸国とアメリカのカリフォルニア州が主産地。フランス,スペイン,イスラエル,アメリカなどでは品種改良が盛んに行われている。日本へは明治の初めに扁桃(巴旦杏)の名前で導入されたが,風土に適さなかったため栽培・普及にいたらなかった。モモに似た葉と花をつける。果実が成熟すると果肉が乾燥して裂け,核が落下する。核の中に仁があり,それを食用とする。核の砕きやすさによって軟核種soft shellと硬核種hard shellが,風味によって甘仁種sweet almondと苦仁種bitter almondがある。食用には軟核の甘仁種を利用する。苦仁種はアミグダリンを含むので苦く食用とならないが,古くから咳止薬として利用されている苦扁桃油の製造原料に用いる。甘仁種はアミグダリンを含まないので生食またはバター,塩などで味付けをし,ナッツとして利用する。近年はチョコレートやクッキーに入れたり,粉末(アーモンドパウダー)にしてケーキに入れたり,薄く刻んでサラダなどの振りかけ用としたりして,生食だけでなく菓子や料理の材料にも利用されることが多い。
執筆者:志村 勲
アーモンドはイスラエル人にとって聖なる植物である。出エジプト後,祭司を選出する部族を決めるにあたって,アーモンドの樹で作ったつえを各幕屋の前に突き立てて占ったところレビ族のアロンのつえに花が咲いたという。タンホイザー伝説においても,ウェヌスの都で快楽にふけった罪を告白にきた彼に対し,教皇ウルバヌス4世は〈このつえに花が咲くなら罪は宥(ゆる)されよう〉と答えてすげなく追い返したが,ほんとうにつえに花が咲いてしまい,あわててタンホイザーを探しまわったという。ギリシアの悲恋物語では,恋人デモフォンDēmophōnの帰還を待たずに焦がれ死にしたフュリスPhyllisのために,デモフォンがアーモンドの樹の洞に作られた墓に回向したところ,花が一斉に咲きだした奇跡が語られ,爾来アーモンドは不滅の愛の象徴ともなった。花言葉は〈純潔〉〈豊穣〉,フランスでは〈幸福な結婚〉。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
バラ科(APG分類:バラ科)の落葉高木。別名アメンドウ、ヘントウ(扁桃)、ハタンキョウ(巴旦杏)。染色体数は2n=16である。葉は長楕円(ちょうだえん)形で長さ約10センチメートル、鋸歯(きょし)があり、表面は平滑で光沢がある。花は径2~3センチメートル、花弁は基本的には5枚、雌しべ1本、雄しべ30本余り、葉の出る前に開花する。果実はモモに似るが扁平(へんぺい)で高さ数センチメートル。果肉は水分が少なく、堅いが、熟すと裂けて核を露出する。核は扁平で、堅くて割れにくい硬核種から、紙のように薄く、割れやすい軟核種まであり、核内には普通1個の仁(じん)がある。この仁がアーモンドナッツとして利用され、軟核種が果実用として栽培される。
西アジア原産で、南西・中央アジア、トルコ、シリア、カフカス、イラン、天山山脈、ヒンドゥー・クシ山脈、アフガニスタンまで広く野生種が分布し、変異は大きい。モモに似た植物で、栽培の歴史は古く、4000年以前から栽培されていた。栽培はモモよりやや暖かく、果実の発育期、とくに収穫期に乾燥する地方がよく、アメリカのカリフォルニア、スペイン、イタリア、フランス、フランス領モロッコ、ポルトガルなどで多く栽培されている。多数の品種があり、ノンパレル、ビュート、モントレーなどが知られる。いずれも自家不結実性なので、交配親和性から6群に分けられ、授粉用に他品種との混植が行われる。開花期の霜抵抗性、冬期の低温抵抗性あるいは高温抵抗性品種が望まれる。日本には明治初年に導入されたが、気候にあわず、一般には栽培化されていない。
[飯塚宗夫 2019年12月13日]
仁に苦味をもつ苦仁種(苦扁桃(くへんとう))と、甘味をもつ甘仁種とがある。前者は薬用としてその抽出油の苦扁桃油は咳(せき)どめに使用され、後者の甘仁油は保健によい。アーモンドナッツは甘仁種の仁で、100グラム中に脂肪54グラム、タンパク質19グラム、そのほか多量のミネラル類、少量のビタミン類を含み、598カロリーをもつ。仁を包む褐色の薄皮は、熱湯をかけるか、蒸気処理で簡単に除去できる。生食のほか、炒(い)ったり、塩や調味料を加えて油炒(いた)めにする。チョコレート菓子や、スライスして練り菓子やアイスクリームに、ペースト状にして菓子類の材料にしたり、広く利用される。
[飯塚宗夫 2019年12月13日]
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