デジタル大辞泉 「イギリス連邦」の意味・読み・例文・類語
イギリス‐れんぽう〔‐レンパウ〕【イギリス連邦】
[補説]カナダ・インドなど 56か国が加盟(2024年現在)。
一般に英連邦とよばれる。イギリスと旧イギリス領植民地から独立した合計53か国で構成される国家グループ。イギリス以外の構成メンバーは、大別して自治領(ドミニオンDominion)とよばれたオーストラリア、ニュージーランド、カナダと、第二次世界大戦後に独立したアジア、アフリカ、オセアニアおよびカリブ海の諸国に分類される。南アフリカも以前には自治領の立場にあったが、1961年共和制に政体を変えイギリス連邦を離脱、1994年に復帰。パキスタンは1972年脱退、1989年に復帰。最近の加盟には、1995年のカメルーン、モザンビークがある。オセアニアとカリブ海の構成メンバーには小国が多い。
構成メンバーは、イギリスと対等な立場にある主権国家で、それらの集合体がイギリス連邦とよばれている。イギリス連邦の構成国の間には、普通の独立国家間にみられない特殊の関係がある。これは、これらの構成国が、かつてのイギリスの植民地であったという歴史的原因に基づいている。日本では普通、英連邦とよんでいるが、けっして国際法上の連邦ではない。正しい名称は「コモンウェルス・オブ・ネーションズ」であり、略して「コモンウェルス」である。
[池田文雄]
コモンウェルスは国際法上の国家連合でも同君連合でも連邦でもなく、既成の概念ではとらえることのできない特殊な多民族の国家グループである。それはイギリス国土を相互の自由な結合の象徴として認め、かつイギリス国王をコモンウェルスの首長として認める諸国家のグループである。この諸国家の結合はきわめて緩く、友好協力関係と実利を基礎とするクラブ的な結び付きで、いわば「多民族クラブ」であり、「多人種の寄合い世帯」である。そこにあるのは実利による結合と緩やかな協力にすぎない。イギリス国王を元首とする国もあるが、別個の国王や大統領をもつ国も多い。各国は政治的にまとまることもなく、むしろ非政治的な国際協力がコモンウェルスの枠組みになっている。そのうちでも、経済援助と開発投資が大きな役割を果たしている。新独立国がコモンウェルスに加入するのは、そこに利益があるためで、利害が対立すれば離脱する。ただし、いずれもイギリス領植民地であったため、英語を共通語として使用し、英語が英連邦を結ぶきずなといわれるほか、議会制度をはじめイギリス流の社会制度ないし社会慣習という共通点をもつ。
[池田文雄]
構成国のなかで、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどは、自治領(ドミニオン)とよばれてきた。自治領は、当初はイギリス本国の植民地であったが、第一次世界大戦の勃発(ぼっぱつ)前に内政上の自治を獲得し、戦後は対外関係においても独立する傾向を強めた。1926年のバルフォア宣言はこの自治領独立化の傾向を進め、自治領は本国と対等で、国王に対する共通の忠誠によって結ばれ、英コモンウェルスの一員として自由に結合するものとなった。1931年のウェストミンスター条例は、このバルフォア宣言の趣旨を法律化し、自治領の独立的地位を法的に確立した。ここに第一次コモンウェルスが成立した。そこにはイギリス国王を共通の元首とする濃い血族の連帯意識があった。第二次世界大戦後、アジア、アフリカ、オセアニア、カリブ海の旧イギリス領植民地の独立に伴い、白人の自治領で構成されていた第一次コモンウェルスは変質して、異文化をもつ多民族の国家グループである第二次コモンウェルスが成立した。そこでは第一次コモンウェルスがもっていた高度の内部的同質性は失われていった。ことに、インドが1949年政体を共和制に変え、イギリス国王に対する忠誠を拒否したのちも、コモンウェルス内に残ることとなったため、従来の国王に対する共通の忠誠という観念は維持できなくなった。そこで1949年のコモンウェルス首相会議で「イギリス国王は独立したコモンウェルスの自由な結合の象徴であり、かかるものとしてコモンウェルスの首長である」という観念が形成された。まさにコモンウェルスの劇的な変身であり、この第二次コモンウェルスが現在のイギリス連邦である。
[池田文雄]
(1)イギリス国王はコモンウェルス諸国の自由な結合の象徴である。(2)イギリス国王はコモンウェルス諸国において、首長という特別の地位をもつ。首長は元首ではなく、自由な結合の象徴にすぎない。(3)共通の問題を協議するためにコモンウェルス首脳会議がある。(4)通常の外交使節のかわりに高等弁務官を派遣している。(5)条約を結ぶ際、相互に通報し、一部のコモンウェルス諸国間では、相互間の紛争は国際裁判機関に付託せず、犯罪人引渡しも普通と異なる。(6)コモンウェルス諸国の国民は、コモンウェルス市民という地位をもっている。
[池田文雄]
第二次世界大戦後、イギリス経済の斜陽化に伴い、構成各国に対するイギリスの指導的地位が低下し、構成各国間の利害対立も目だってきた。1973年のイギリスのEC(現EU、ヨーロッパ連合)加盟により、コモンウェルスの経済的紐帯(ちゅうたい)といわれた「イギリス連邦特恵関税」が廃止された。イギリスは生き残るために、コモンウェルスを切り捨てて、大陸ECの一員となる道を選んだ。EC加盟に伴い、英ポンドは国際基軸通貨の座を降り、ポンド地域はほとんど消滅した。この二つの事実は、加速的にコモンウェルス諸国のイギリス離れをよんだ。ではコモンウェルスは解消してしまうかというとそうでもない。ポンドは基軸通貨ではなくなったが、ロンドンのシティは依然としてコモンウェルスを含む世界の金融市場の中心であり、イギリスがコモンウェルス諸国にもつ経済的権益はなお大きい。コモンウェルスを構成する貧しい諸国にとっては、頼りになるロンドンである。利益のあるところに結合がある。それがコモンウェルスである。
コモンウェルスの機構としては、2年に1回開催される首脳会議、事務局、援助基金、技術基金などがある。
[池田文雄]
『伊東敬著『英連邦史論』(1963・表現社)』▽『英連邦研究会編『英連邦の研究』(1969・国際電信電話株式会社)』▽『池田文雄著『英連邦と国際問題』(1978・教育社、現、ニュートンプレス)』
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イギリス王に忠誠を誓うか,もしくはイギリス王を〈構成諸国の自由な結合の象徴〉と認めている諸独立国および諸属領の連合体の総称。19世紀前半に形成されたイギリス帝国での本国対植民地の支配従属関係は,第1次世界大戦を経て対等な独立国家間の自発的連邦体制へと発展した。この結果,〈イギリス帝国〉にかわって〈イギリス連邦〉〈英連邦〉という名称がしだいに用いられるようになった。1931年のウェストミンスター憲章は,〈イギリス王に対する共通の忠誠によって結ばれた,それぞれが主権をもつ対等な独立国家の自由な連合体〉として,イギリス連邦の性格を規定した。しかし,この憲章が自治領として認めたのは少数の白人国家にすぎず,帝国的要素はなお残った。連邦が現在のような多人種共同体となったのは,第2次世界大戦後のことであり,49年の連邦首相会議で,イギリス王に対する忠誠の誓いは必ずしも必要としなくなり,また連邦の正式名称はBritishを省いて単にCommonwealth of Nationsとなった。
連邦構成諸国は,きわめて緩やかに連合し,共通の外交政策をもたない。しかし連邦内では英語が共通語とされ,法律・教育などの社会制度の面でイギリス流の方式が広く行われている。このため連邦首脳会議をはじめ経済,金融,軍事技術,科学,教育など多くの分野で協力関係が維持されている。経済面では,1932年のオタワ会議で帝国特恵関税制度が採用され,帝国経済ブロックが形成された(オタワ協定)。今日,経済の不振に悩むイギリスの連邦諸国向けの投資は減少しつつあるが,連邦におけるイギリス,カナダ,オーストラリア等の資本投下や技術開発援助は,なお重要性を失わない。また連邦諸国の国民は,連邦市民権を有する。こうした独自の協力関係が存続する一方,連邦は困難な問題にも直面している。第2次大戦後,イギリスの指導力低下に伴い,連邦諸国の間には,連邦外の国々との結びつきを求める傾向が強くなった。また73年にイギリスがヨーロッパ共同体(EC)に加入して以来,連邦経済の中心としてのイギリスの性格は,いっそう弱まってきている。2001年末現在の連邦構成国の数は54ヵ国にのぼっている(表参照。ただし,表は1988年時点)。
執筆者:池田 清
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イギリスと旧植民地,自治領のゆるやかな結合体。従来のイギリス帝国の支配・従属関係の再編成を企てたもの。1926年の帝国会議において「イギリス国王に対する共通の忠誠心によって結ばれた,お互いに対等な独立国の自由な連合体」と定義され,それが31年のウェストミンスター憲章で確認された。第二次世界大戦後は旧植民地があいついで独立し,49年正式名称から「ブリティッシュ」が省かれて,たんに「コモンウェルス」と呼ばれるようになり,ますます自由な連合体という性格を強めている。2003年現在で54カ国が参加している。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…このほかアイルランド島北東部の北アイルランドやアイリッシュ海のマン島,イギリス海峡のチャンネル諸島を含む。また旧イギリス領の諸国とともにイギリス連邦を形成する。イギリスは,江戸時代に始まる日本との交渉の初期から〈ぶりたにあ〉〈あんぐりあ〉と呼ばれ,〈貌利太尼亜〉〈諳厄利亜〉など種々の漢字があてられた。…
※「イギリス連邦」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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