日本大百科全書(ニッポニカ) 「イグチ」の意味・わかりやすい解説
イグチ
いぐち / 猪口
boletes 英語
bolets フランス語
Röhrling ドイツ語
担子菌類、ハラタケ目のアミタケ科Boletaceaeとオニイグチ科Strobilomycetaceaeのキノコを総称する一般名。猪口の漢字があてられるが語源は不詳。また、イグチ類の代表種であるアミタケは、ヌメリイグチ属Suillusの菌であるが、属名のスイルスSuillusはブタを意味するラテン語である。古代ローマ人も日本人の先祖も、ともにアミタケからブタを連想したことは興味深い。イグチの仲間はハラタケ目に属するが、傘の裏にひだはなく、細い管孔(くだあな)が密生し、その内面に胞子をつくる。この外見はサルノコシカケの仲間を思わせるので、以前はサルノコシカケ科に分類されていた。しかしそれは見かけの類似にすぎず、アミタケ科のキヒダタケなどでは、完全にひだになっている。イグチの種類はきわめて多く、アミタケ科には約70種、オニイグチ科には約15種の日本産があり、さらに研究が進めばその種数は増えると思われる。アミタケ科は胞子が長い紡錘形で、表面は滑らか。胞子紋はオリーブ色、肉桂(にっけい)色、黄土色のものが多い。オニイグチ科の胞子は球形、短楕円(たんだえん)形、紡錘形などであり、表面には網目状、うね形、いぼ状の彫刻模様を帯びるものが多い。胞子紋は黒、オリーブ褐色、紅褐色などである。大部分は地上生であるが、アミタケ科のものは一般に菌根性で、宿主となる木との関係は密接である。たとえば、マツ林にはアミタケ、ヌメリイグチ、チチアワタケなどが、カラマツ林にはハナイグチ、シロヌメリイグチ、アミハナイグチが、カンバ林にはヤマイグチ、ブナ科の林にはウラベニイロガワリ、ヤマドリタケ、アカヤマドリなどが生える。オニイグチ科のものはかならずしも菌根性ではない。一般に大形の種が多く、食用菌も多い。少なくとも猛毒性のものはなく、比較的安全な食用菌とみなされるが、消化しにくいので多量に食べると下痢をしやすいともいわれる。日本ではアミタケがいちばん好まれるが、ヨーロッパではヤマドリタケがもっとも良質の食用菌とされ、セープcèpeの名のもとにレストランのメニューにも載せられ、乾燥品や缶詰にして市販される。
[今関六也]