猪口(読み)チョク

デジタル大辞泉 「猪口」の意味・読み・例文・類語

ちょく【×猪口】

日本酒を飲むときに用いる陶製の小さな器。上が開き下のすぼまった小形のさかずき。江戸時代以降に用いられた陶製の杯についていう。ちょこ
本膳料理に用いる1の形に似た深い器。酢の物や酒のさかななどを盛る。
[補説]「猪口」は当て字。「ちょく」は、「鍾」の呉音、福建音、朝鮮音からなどの諸説がある。
[類語](1さかずきはい玉杯金杯銀杯酒杯ぐい飲み

ちょこ【×口】

《「ちょく(猪口)」の音変化》さかづき。「猪口に酒をつぐ」
猪口才ちょこざい」の略。
「何がとは、―言うてぢゃ」〈滑・膝栗毛・七〉

い‐ぐち〔ゐ‐〕【×猪口】

イグチ目のキノコ総称アワタケ・ヌメリイグチ・ハナイグチなどがあり、傘は肉質まんじゅう形で、裏面ひだはなく、小さな穴がたくさんある。食用になるものが多い。

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精選版 日本国語大辞典 「猪口」の意味・読み・例文・類語

ちょく【猪口】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「猪口」はあて字。「鍾」の呉音、あるいは福建音、朝鮮音に関係があるという )
  2. 酒をつぎ入れて飲む陶製や金属製の小さな器。上が開き、下のすぼんだ小形のさかずき。正式には塗杯を用いるのに対して、普通に燗徳利と対(つい)で用いられる。ちょこ。のぞき。
    1. [初出の実例]「花見酒ちょくでのまばや綸旨梅〈政重〉」(出典:俳諧・遠近集(1666)一)
  3. ( に形が似ているところからいう ) 本膳料理につく、小さくて深い陶器。刺身、酢の物などを入れる。〔男重宝記(元祿六年)(1693)〕

い‐ぐちゐ‥【猪口】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 担子菌類のキノコ。狭義にはイグチ科に限定し、広義にはオニイグチタケ科をも含む。多くは食用とし、針葉樹林内の地上に生える。かさの表面は黄褐色、赤褐色または暗褐色、裏面は淡黄褐色で網目状に多数の小孔を有する。高さ三~一五センチメートル。やまどりたけ。ぬめりいぐち。
    1. [初出の実例]「くさひらのゐぐち如何。答猪のししのくひてくつるよし歟」(出典:名語記(1275)八)
  3. (たけのこ)が伸びてから梅雨中などに立ち枯れして黒くなったもの。〔重訂本草綱目啓蒙(1847)〕

ちょこ【猪口】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 「ちょく(猪口)」の変化した語。
    1. [初出の実例]「燗どうこの湯をかはいらしい猪口(チョコ)で、二三ばい残しててうしをつけ」(出典:人情本春色辰巳園(1833‐35)三)
  3. ちょこざい(猪口才)」の略。
    1. [初出の実例]「なにがとは、ちょこいふてじゃ。よふおもふても見さんせ」(出典:滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)七)

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改訂新版 世界大百科事典 「猪口」の意味・わかりやすい解説

猪口 (ちょこ)

杯の一種で,ふつう陶磁製の小器をいう。〈ちょく〉からの変化で,〈ちょく〉は〈鍾〉の呉音,あるいは福建音,朝鮮音に関係があるとする新井白石の説などがあるが,はっきりしない。猪口は〈ちょく〉の当て字である。《守貞漫稿》が〈江戸近年式正ニノミ銚子ヲ用ヒ,畧ニハ燗徳利ヲ用フ。……盃モ近年ハ漆盃ヲ用フコト稀ニテ磁器ヲ専用トス。……三都トモ式正,塗杯,畧ニハ猪口。式正ニモ初塗杯,後猪口ヲ用フコト銚子ニ准ス〉としているように,江戸時代には燗徳利との組合せで猪口はひろく普及した。なお,酒器以外に食器とされる猪口があった。江戸初期ごろから饗膳の献立にしばしば見られるもので,〈大ちよく〉〈中ちよく〉〈小ちよく〉などと記され,大きいものにはおもにあえ物,小さいものには塩辛,このわたなどのほか,調味料を盛った。現在,そば切りのつゆを入れる器を〈そば猪口〉と呼んでいる。これは一般には染付の磁器で,猪口よりは大きく,口がやや開いた筒形を呈した器である。いつごろからそば猪口が用いられたかは不明だが,商いとしてのそば屋が成立した江戸中期以後であろうと思われる。

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食器・調理器具がわかる辞典 「猪口」の解説

ちょく【猪口】

➀陶磁器製、ガラス製、銀製などの小さい。◇「ちょこ」ともいう。
➁直径10cm前後の小さい皿。刺身・酢の物などに用いる。

ちょこ【猪口】

ちょく。◇「おちょこ」の形で用いることが多い。⇒ちょく

出典 講談社食器・調理器具がわかる辞典について 情報

とっさの日本語便利帳 「猪口」の解説

猪口

日本ではさかずき。ちょこ。中国ではブタの口。「猪」はブタのことで、イノシシ(野猪)ではない。

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

世界大百科事典(旧版)内の猪口の言及

【杯∥盃】より

… 杯の形は,一座の人々が同じ杯で飲みまわしをする儀礼的な酒盛から,独酌など楽しみのための飲酒へと内容を変化させるに伴って,大杯から小杯になった。現在の杯はほとんどが陶磁製の猪口(ちよく∥ちよこ)など個人用の小器で,徳利(とくり)と組み合わせて燗酒(かんざけ)を飲むことが多い。しかし,儀式では大小三重(みつがさね)の朱漆塗木杯,神事ではかわらけが用いられる。…

【猪口】より

…〈ちょく〉からの変化で,〈ちょく〉は〈鍾〉の呉音,あるいは福建音,朝鮮音に関係があるとする新井白石の説などがあるが,はっきりしない。猪口は〈ちょく〉の当て字である。《守貞漫稿》が〈江戸近年式正ニノミ銚子ヲ用ヒ,畧ニハ燗徳利ヲ用フ。…

【盃事】より

…やがて人間相互の緊密な関係の誓いに際しても盃事が行われるようになった。近世以来酒を飲む器として猪口盃が普及しめいめいの盃で酒を飲むようになったが,正月の屠蘇(とそ)や婚姻の際の盃事ではまだ同じ盃で飲みかわしており元の意義を残している。宴会などでみられる猪口盃の献酬(けんしゆう)もこの飲みまわしのなごりとされている。…

※「猪口」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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