イラク西部からシリア東部を拠点とするイスラム武装勢力。「イラク・シリアのイスラム国」Islamic State in Iraq and Syria; ISIS,「イラク・レバントのイスラム国」Islamic State in Iraq and the Levant; ISILなどの名称で活動。2003年のイラク戦争の際に進駐したアメリカ軍などに対して,イラク国内に勃興した武装抵抗運動が起源。スンニー派イスラムの過激な解釈に基づいた攘夷主義であり,当初は国外からのアルカイダ系戦闘員と結託して「イラク・イスラム国」の建設を目指した。おりから,かつてのフセイン体制下に享受していた利権を失い,シーア派主導の新政府から疎外されていたスンニー派諸部族の忿懣を吸収するかたちで勢力を伸ばした。イラク中央政府が一時的にスンニー派との宥和に動くなどの情勢変化でいったんはシリアとの国境地域に後退したが,2011年にシリア内戦が勃発すると策源地をシリア北方のラッカに移し,両国北部・中部国境近辺に割拠して「イラク・シャーム(レバント)のイスラム国」と名のった(シャームあるいはレバントは,いずれもシリア,レバノンなど地中海東岸地域をさす。→レバント地方)。2014年に入ってイラク,シリア両国の統制力喪失に乗じて急速に勢力を拡大し,夏までには最大でそれぞれの国土の 3分の1を支配下に置いて,指導者アブー・バクル・バグダディは 6月末にみずからカリフ(スンニー派イスラム統治者)についたと宣言した。8月にアメリカ軍が,9月からは多国籍部隊が空爆を開始。欧米人や日本人など多国籍部隊を支持する国の人質を相次いで処刑し,その様子をインターネットで公開するなどの蛮行は国際社会の憤激を招いた。欧米在住のムスリム若年層など外国人義勇兵の参加も大きな懸念材料になった。
《The Islamic State》イラク、シリアを中心に2004年から活動してきた「イラクのアルカイダ(AQI)」を母体とするスンニ派のイスラム過激組織、「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」の2014年6月以降の自称。最高指導者はイラク人のバグダディ。イスラム法に基づくカリフ制国家を謳うが、国際社会は承認していない。しかるに、シリアやイラク国外の中東国、アフリカなどでは、既存の過激組織が同組織への忠誠を宣言し、“イスラム国の州”を名乗る例も多発している。イラクでは2014年8月、シリアでは同年9月から欧米諸国が参加する空爆が開始され、同地域におけるイスラム国の支配地域は減少しているものの、関連組織の世界規模での拡大が懸念されており、近年では特に東南アジア方面での影響力の高まりが指摘されている。2015年には、前年より拘束していた邦人2名について、日本政府に身代金を要求ののち殺害映像を公開。日本社会に衝撃を与えた。略称はIS。