帝政末期ロシアの政治家。日露戦争に反対し,困難なポーツマス条約の締結のために尽力したロシア側全権として知られる。ティフリス(現,トビリシ)に生まれ,1870年オデッサ大学物理・数学科を卒業。92年運輸大臣,6ヵ月後に大蔵大臣(1903まで)に任ぜられたが,この間,彼はドイツの経済学者F.リストの理論に導かれ,経済関係に国家権力が積極的に介入する政策をとった。皇帝の権威を背景に酒類の専売制導入などによる財政改革や保護関税による産業保護政策を実施し,金本位制を確立,外資の積極的導入を図り,シベリア鉄道などの鉄道建設とその関連産業の発展を促進した。この工業化の企ては成功したが,農業はなおざりにされた。それを是正するためにウィッテは20世紀初めに農業問題特別審議会の会長として農業の改革案を作成し,これが後のストルイピン土地改革の青写真となった。
ウィッテはアレクサンドル3世とポベドノスツェフを尊敬した保守的専制主義者ではあったが,現状維持に固執せず,新しい時代精神に合理的に(できるだけ少なく)譲歩する保守主義者であり,同時代の保守派には理解されなかった。ウィッテはポーツマスから帰った直後の1905年10月,全国的なストライキのなかで十月宣言を起草し,立法権をもつ議会と市民的自由をロシアに導入しようと試みたが,それもロシアの国力を強化する手段になると考えたからである。この宣言の公布と共に彼は首相に任命され,極東からヨーロッパへの100万の軍隊の移動と外債募集の成功によって1905年革命の収拾に成功するが,ニコライ2世にうとんぜられ,半年で辞任を余儀なくされる。晩年は上院議員,財政委員会議長として財政のご意見番をつとめるかたわら,有名な《回想録》(1923-24)を執筆した。第1次大戦にも財政的見地から反対し,死の時まで権力の座に返り咲くことを夢想した。彼の墓や文書はレニングラード(現,サンクト・ペテルブルグ)にたいせつに保存されている。
執筆者:保田 孝一
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ロシアの政治家、伯爵。官吏の家庭に生まれ、オデッサ(現、オデーサ)のノボロシア大学卒業後、鉄道会社に勤務した。鉄道運賃の理論に関する著作で有名になり、1889年大蔵省鉄道局長、1892年から1903年まで蔵相を務め、「ウィッテ体制」とよばれる政府指導型の資本主義体制を築いた。彼はとくに鉄道建設と重工業の育成を目ざし、その手段として、通貨の安定、財政の改革、間接税の引き上げ、保護関税の実施、外資の導入といった一連の政策を推し進めた。外交面では日露戦争の講和会議にロシア全権として活躍。講和を急いでいる日本の手の内を読んで有利な条約を締結した。1905年の革命の最中に大臣会議議長に任ぜられ、「十月宣言」を起草。市民的自由や国会の設立を約束して革命の火を消した。しかし政府部内の右派からは左寄りとみられ、翌年4月辞任した。
[外川継男]
1849.6.17~1915.2.28
ビッテとも。ロシア末期の政治家。1892年から1903年まで蔵相として,シベリア鉄道建設,露清銀行と東清鉄道による東アジア進出などを推進したが,日露開戦に反対し左遷される。戦後に全権として日露講和条約を締結。著作に大竹博吉訳「ウィッテ伯回想記」。
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…しかし経済の分野では資本主義の発達を助成する政策をとり,人頭税を廃止したり,最初の労働立法を施行したりした。とくに92年にウィッテを大蔵大臣に登用してからは,大規模な鉄道建設を中心にして,急テンポで工業化がすすめられた。外交面では,即位当初ドイツ,オーストリアとの接近をはかって,1881年に三帝同盟を復活させたが,その後次第にフランスに近づき,94年1月最終的に露仏同盟を成立させた。…
…1903年になると,1890年代の成長の基盤であった南ロシアの鉱山・工場地帯全域に長期かつ深刻なゼネストがおこった。 このような学生運動,民族運動,農民運動,労働運動が噴出して,体制が動揺する中で,皇帝ニコライ2世は90年代の成長政策の推進者蔵相ウィッテを退け,内相プレーベを重用して抑圧政策をとる一方,山師的人物の献策をいれて,極東での冒険政策をすすめ,1904年1月日露戦争に入り込んだ。この戦争は,国民にまったく不人気であり,かつロシアの軍事力,国力の欠陥を露呈した。…
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