信用関係の急激な崩壊によって金融取引が全般的に梗塞(こうそく)し、多数の金融機関が業務を停止するか倒産に追い込まれ、また証券取引所での相場も急落し、金融的崩壊をもたらす恐慌をいう。金融恐慌は、過剰生産による再生産過程の実現の困難や、内乱、戦争、天災など外的要因の流通攪乱(かくらん)の結果おこり、一連の経過を含むものである。たとえば、好況期の諸支払い円滑化のための信用取引拡大が、過剰生産の顕在化とともに、収益悪化、生産停止、支払い不能となり、商業信用が崩壊(信用恐慌)して多数の企業が破局に直面し、支払いのための現金需要が増大する。しかし、その不健全さは銀行の融通不能となり、支払い手段の貨幣は供給されない(貨幣恐慌)。銀行では貸付還流の遅れから、さらに回収不能に陥り、銀行の資産流動化が悪化し、他方、急激な預金引出し殺到(取付け)がおこり、支払い停止、銀行の大量倒産となり(銀行恐慌)、金融組織全般に激しい混乱がおこる。また株式や社債などの有価証券の相場が暴落し(取引所恐慌)、金融組織の混乱はいっそう強まる。金本位制のもとでは銀行券兌換(だかん)請求の続出によって正貨準備が枯渇し、兌換停止となり、対外的にも金流出に対応するため金兌換停止、金準備の確保に発展する(本位貨恐慌)。以上のように金融恐慌は一連の過程をとるが、その発生は景気上昇過程での銀行の信用引締めに端を発し、逆転して生ずる場合も多い。かつての通貨主義的発券制度が支配的であった金本位制のもとにおいては金融恐慌が典型的な形で現れたが、第二次世界大戦後の管理通貨制のもとでは国内的には金融恐慌は比較的まれになった。
[海道勝稔]
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1927年(昭和2)に勃発した日本の銀行恐慌。同年3月中旬から全国に銀行取付けがおこり,同年中に休業した銀行は45行に上った。恐慌の直接のきっかけは,3月14日の衆議院予算委員会における「渡辺銀行が破綻した」という片岡蔵相の失言にあったが,恐慌激化の要因は,関東大震災の処理として滞留していた震災手形にあった。この手形の最大の所持銀行は台湾銀行であり,最大の債務者は鈴木商店であった。第1次大戦による大戦景気のもとで急膨張した総合商社の鈴木商店の経営は戦後恐慌後いっきょに悪化し,その破綻が震災手形によってくりのべられていたのである。震災手形の処理をめぐる議会審議の過程でこの問題が表面化し,結局,台湾銀行・第十五銀行・近江銀行などの大銀行までが破綻した。恐慌の深化に直面し,政府は日銀特融法・台湾特融法の2法を成立させて救済にあたったが,その処理はその後長期間にわたった。また,この恐慌を契機に五大銀行体制が確立した。
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…25年第2次加藤高明内閣の商工相,第1次若槻礼次郎内閣の蔵相となる。在任中の27年震災手形処理法案の審議中の失言によって金融恐慌を誘発した。【金原 左門】。…
…さらに,アメリカ独立戦争やナポレオン戦争の開始,進行,終結などに関連して,イギリスその他に恐慌現象が生じている。これらの初期的恐慌は,しばしば財政破綻や戦争のような経済外的事件から生じ,したがって法則的周期性をもたず,投機的取引の崩壊から生ずる場合も含め,流通表面の局部的な攪乱現象にとどまり,都市の金融恐慌・商業恐慌が全社会の再生産に与える影響はまだ比較的限られたものであった。
[自由主義段階の典型的恐慌]
産業革命を経て,イギリス資本主義が綿工業を中心に世界の工場の位置につき,自由主義段階の成長期に入ると,恐慌現象も周期的恐慌として典型的様相をおびる。…
…金融機関は資金の効率的運用のために手持現金(支払準備)を切り詰めているので,取付けが起こると中央銀行による貸出しなど他から早急に現金を調達できないかぎり,対応できず休業に陥ることとなりやすい。それが預金者心理を不安にかりたてて他の金融機関の取付けに波及し,金融恐慌へ進むことがある。戦前の日本には小規模銀行が多く,その経営も関係企業と癒着して放漫となり資金固定化の例が多かったことから,ブームのあとの景気後退時によく取付けが起こった。…
※「金融恐慌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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