サハリンの中・北部に住む少数民族ウイルタの固有の言語。ウイルタは、かつてオロッコとよばれていたこともあり、ウイルタ語もまたオロッコ語とよばれていた。しかし、オロッコは蔑称(べっしょう)であるため、現在は用いられない。ウイルタの人口は約350(1995)。広義のツングース語の一方言で、ツングース語のなかではとくにオルチャ方言やナーナイ方言に似ており、これらにいちばん近い関係にある。音韻には母音調和とよばれる制限があって、一つの単語のなかに共存できない母音がある。単語は語幹だけからなるか、あるいはこれに接尾辞や語尾が連結して、いわゆる膠着(こうちゃく)的構造をなすが、またこの連結が融合して一つになっていることもある。文のなかの単語の配列は日本語に似ており、基本的には主語や目的語は動詞の前に、修飾語は修飾される語の前にくる。単語には、ツングース語固有とみられる単語のほか、中国語、満州語から黒竜江下流の言語を通して入った単語があり、ロシア語からの借用語も多く、また日本語、アイヌ語から入った単語もある。
ウイルタ語は口で話されるだけで、固有の文字はないが、口頭の言語による語り物(エベンキ方言を混ぜる)、昔話(伝説)、架空の物語、童話、なぞなぞ、即興的な歌謡の類がある。ウイルタと日本人との接触は江戸時代以来であり、南樺太がかつて日本領であり、また戦後には少数のウイルタが北海道に移住したこともあり、日本との関係は深い。ウイルタ語の古い記録としては、江戸末期の日本人が仮名で記したものなどがある。
[池上二良]
サハリン(樺太)のポロナイスク(敷香(しくか))付近から北部に居住する少数民族ウイルタ族の固有の言語。従来オロッコ語Orokkoとよばれたが,ウイルタはこの民族の自称である。ツングース諸語の一つである。他のツングース語のうち,アムール川下流のオルチャ語に親縁関係が最も近い。ツングース諸語の共通性として,音韻には母音調和という同一単語内に共存できる母音の種類についての制限があり,文法的には膠着語的構造をもち,語順は主語・目的語・動詞の順をとる。語彙には,固有の単語のほかに,アイヌ語,日本語からの借用語もあるが,中国語や満州語から古く入った語や,その後ロシア語から入った多くの借用語がある。ウイルタ語は,これを書く固有の文字がなく,口で話されるだけであるが,昔話(伝説),架空の物語,語り物(これはエベンキ語をまぜて使う),なぞなぞ,歌謡などの諸種の口承文芸がある。ウイルタ語の古い記録としては,江戸時代(19世紀半ば)にこの地方を調査した松浦武四郎がその単語をかなで記したものがある。
執筆者:池上 二良
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