改訂新版 世界大百科事典 「ウェゲナー」の意味・わかりやすい解説
ウェゲナー
Alfred Lothar Wegener
生没年:1880-1930
ドイツの地球物理学者。大陸移動説の提唱者として知られる。牧師の子としてベルリンに生まれ,ハイデルベルク大学,インスブルック大学で学び,1905年に惑星運動の計算によってベルリン大学で学位を得た。その後高層気象に興味を示し,凧(たこ)や気球を用いて観測を行った。06年4月6日から8日まで兄クルトと共にドイツとデンマークを風に乗って往復し,当時としての自由気球による滞空記録をつくった。同年,デンマークの企画したグリーンランド探検に招かれて参加し,ふた冬にわたって気象と氷河を観測した。この頃すでに大西洋の両岸の形の類似に注目していたが,東グリーンランドの1823年以来の経度観測結果から,グリーンランドがその間西方へ移動しているらしいことを知った。このことは大陸移動説の形成に大きな刺激となったと思われる。この観測結果は今から見ると全く誤りで,大陸移動を証明するだけの精度をもつ観測は1983年現在まだなされたことがない。しかし,ウェゲナーが大陸移動は地質時代ばかりでなく現在も起こり続けていると考えていた点はもっと注目されてよい。帰国後,マールブルク大学の講師となった。当時有名な気候学の大家でハンブルク海洋気象台のW.ケッペンの知遇を得たのもこの頃で,南アメリカと西アフリカの古生物種の類似や氷河遺跡の対応などについて多くの示唆を与えられた。数年後にウェゲナーはケッペンの娘エルゼと結婚する。
ウェゲナーが大陸移動説を公にしたのは,1912年1月6日のフランクフルトでの地質学会である。その後,第2回目のグリーンランド探検(1912-13)と第1次世界大戦従軍(1914-18)によって中断したが,15年に大陸移動説を《大陸と海洋の起源Die Entstehung der Kontinente und Ozeane》として出版した。この説は賛否両論ながら世界中に大反響をまき起こした。ウェゲナーは29年の予備探査の後,30年にグリーンランド探検に出かけ,途中で遭難死亡した。170編におよぶ彼の著作の大半は《大気熱力学Thermodynamik der Atmosphäre》(1911)など気象学・気候学に関するものであり,大陸移動説については前述の著書(第4版まで出た)のほかは約10編にすぎない。そのほか,大陸移動説の基礎データとなるものとして,ケッペンと共著の《地質時代の気候Die Klimate der geologischen Vorzeit》(1924)などが著名である。妻エルゼの書いた伝記《ウェゲナーの生涯》(1960)がある。
→大陸移動説
執筆者:小林 和男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報