ウツボ(読み)うつぼ(英語表記)moray eels

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウツボ」の意味・わかりやすい解説

ウツボ
うつぼ / 鱓
moray eels

硬骨魚綱ウナギ目ウツボ科の総称、またはそのなかの1種。世界には15属185種ほど知られているが、日本近海には10属約57種が報告され、そのうちの多くは沖縄諸島以南に分布する。体は細長くて側扁(そくへん)し、皮膚には鱗(うろこ)がなく、一般に肥厚する。鰓孔(さいこう)は小さくて丸く、舌がない。腹びれ胸びれがなく、多くは背びれと臀(しり)びれがあって尾びれと連続する。後鼻孔(こうびこう)は目の前縁の上方に開き、種類によってはよく発達した鼻管を形成する。体色および斑紋(はんもん)は多様で変化に富み、種類の判別上重要な特徴となる。また、歯の形状とその配列も属や種の特徴となる。

[浅野博利・尼岡邦夫 2019年2月18日]

分類

ウツボ類はウツボ亜科Muraeninaeとキカイウツボ亜科Uropterygiinaeに分類される。ウツボ亜科はゼブラウツボ属、ハナヒゲウツボ属、モヨウタケウツボ属、コケウツボ属、タケウツボ属、アラシウツボ属およびウツボ属を含み、多くのウツボ類はウツボ属に入る。垂直鰭(すいちょくき)がよく発達し、背びれは肛門(こうもん)より前方から始まる。キカイウツボ亜科はタカマユウツボ属、アミキカイウツボ属およびキカイウツボ属を含み、日本での種数は少ない。その特徴はひれがまったくないか、あるいは尾端部にのみ存在することや、尾部の長さが躯幹(くかん)部(胴部)の長さにほぼ等しいことなどである。

[浅野博利・尼岡邦夫 2019年2月18日]

生態

ウツボ類のレプトセファルス(葉形(ようけい)幼生)は、一般に非常に退化した胸びれをもち、また尾端部が通常は幅広くて丸みを帯びる。消化管はまっすぐで膨らみがない。

 多くの種類は、浅海の岩礁域やサンゴ礁に生息するが、やや深い所の泥底にすむものもいる。夜行性で、性質が荒く、一般に貪食(どんしょく)である。鋭い犬歯をもつ種類にかみつかれると危険である。南方産のウツボの仲間には、かみつくときに毒液を出すものや、食べると中毒をおこすものがある。日本産のウツボ類のうち、ウツボ、トラウツボ、コケウツボなどは地方により食用とされている。捕獲には網籠(あみかご)(ウツボ籠)が使われ、餌(えさ)にはタコが効果的である。

[浅野博利・尼岡邦夫 2019年2月18日]

代表種

ウツボGymnothorax kidako(英名kidako moray)は岩手県以南の太平洋沿岸、島根県以南の日本海沿岸、東シナ海、朝鮮半島南部、台湾南部の海域などに分布する。学名のkidakoは神奈川県三崎(みさき)地域の方言の呼称である「キダコ」に由来する。体は長くて側扁し、体高は比較的高い。前鼻孔は管状で長く、吻端(ふんたん)付近に開口する。後鼻孔には鼻管がない。口は大きく、およそ頭長の2分の1。上下両顎(りょうがく)の歯は1列に並び、長三角形で、各歯の縁辺に鋸歯(きょし)がない。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)に3~4本の歯が1列に並ぶ。背びれと臀びれはよく発達し、腹びれと胸びれはない。体は黄褐色で、暗褐色の不規則形の横帯がある。臀びれは白く縁どられる。口角部と鰓孔(さいこう)は黒い。水深2~60メートルの岩礁、砂地、軽石帯、サンゴ礁などにすむ。昼間は穴や割れ目に隠れて、頭だけ出している。夜間に外に出て活動するため、夜釣りで釣れることがある。おもに魚類、軟体類、甲殻類、貝類などを食べる。最大全長は92センチメートルほどになるが、普通は75センチメートルほど。産卵期は7~9月。ホルモン処理(成熟促進のためのホルモンを投与すること)によって得た卵は分離浮性卵で、油球がない。卵径はおよそ3.5ミリメートル。孵化仔魚(ふかしぎょ)は上顎に3本、下顎に4本の歯を備える。自然の産卵行動は、1980年(昭和55)に三宅(みやけ)島の水深12メートルで観察されている。そのときの記録では全長約90センチメートルの雌雄が尾部をからませ、突然腹部を押しつけた後、離れて抱卵と放精。卵は丸く、浮性で、卵径は2.0ミリメートルであったとされている。本種はおもに延縄(はえなわ)、籠、筒、突き、釣りなどで漁獲される。日本ではもっともよく利用されているウツボ類で、干物、煮物、鍋物(なべもの)、湯引き、たたき、フライなどにする。和歌山県南部には干物にしてから佃煮(つくだに)にするウツボ料理があり、また、滋養強壮の食材として利用し、妊婦に食べさせる風習がある。皮膚は厚くてじょうぶなので、なめして財布などに利用できる。

[浅野博利・尼岡邦夫 2019年2月18日]

民俗

鋭い歯をもつ奇怪な顔つきから、昔から恐ろしい魚とされてきた。ヨーロッパでは古くからタコの天敵といわれ、日本でもウツボとタコの闘争の話が各地に伝わっている。ウツボは実際にタコを捕食するので、この習性を利用し、タコの大好物であるイセエビをタコから守るため、イセエビの増殖を目的とする人工魚礁の中に見張り役としてウツボを飼うというアイデアが出されたこともある。

[矢野憲一]


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改訂新版 世界大百科事典 「ウツボ」の意味・わかりやすい解説

ウツボ (鱓)
moray eel

ウナギ目ウツボ科Muraenidaeに属する海産魚の総称,またはそのうちの1種を指す。種類が多く,日本近海には40種近くが知られているが,その大半は南西諸島以南に分布する。体型はウナギ形で,やや側扁する。口裂は大きく,上下両あごに長く鋭い犬歯状の歯がある。また,口蓋の鋤骨(じよこつ)にも列生した可動歯がある。これらの歯は後方には倒れるが,前方には倒れないので,獲物をとらえるのにつごうがよい。歯から毒液を分泌する種類もある。皮膚は肥厚し,うろこがない。胸びれ,腹びれもなく,口には舌もない。体色斑紋はさまざまで,種を識別するうえでよい手がかりになる。夜行性で,日中は岸近くの岩礁やサンゴ礁の間に潜んでいるものが多いが,海岸から離れた深い海底にすむ種類もある。貪食(どんしよく)でまた闘争性が強く,鋭い歯で小魚,エビ,タコなどを攻撃して捕食する。ウツボ類は地方的に食用に供されるが,南方にはゴマウツボ,ハナビラウツボ,ナミウツボなど,猛毒性のシガテラ毒をもっているものが少なくないので注意を要する。

 ウツボGymnothorax kidakoは本州の関東以南からフィリピンにわたって分布し,もっともふつうに見られる種類で,岸近くの岩礁にすむ。ナマダ(外房),キダコ(神奈川県三崎)などの地方名もある。体は黄褐色地に暗褐色斑紋が不規則な横縞を形成している。後鼻孔はまるく鼻管がない。鰓孔(えらあな)は小さくて黒い。しりびれの縁は白い。全長約90cmになる。水族館でよく見られ,水槽の岩組みの間から外をうかがうどうもうな顔つきが人気を集めている。アミウツボG.reticularisは関東地方南部からインド洋にかけて分布し,やや深い海底にすむ。体は淡黄褐色の地に15~22条の暗色黄帯をもつ。体高はやや低い。全長およそ60cmになる。トラウツボMuraena pardalisは南日本からインドネシアにかけて分布する。口は大きくて完全には閉じることができない。前後の両鼻孔はともに長い鼻管の先端に開口する。全長は約80cmになる。皮膚は厚く,黒く縁取られた白い斑紋を散らして美しいのでなめし革として財布,ハンドバッグなど細工物に利用される。コケウツボAemasia lichenosaは本州南部の岩礁にすみ,体は暗褐色で,コケを思わせる不規則な淡褐色斑紋が体側に3列に並んでいる。オトヒメエビと共生し,エビの行動によって敵または餌動物の接近を知る。全長は約80cmになる。
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百科事典マイペディア 「ウツボ」の意味・わかりやすい解説

ウツボ

ウツボ科の魚の総称,またはその1種。日本近海に40種近くが知られており,大半は南西諸島以南に分布する。体型はウナギ形でうろこがない。代表種ウツボは,全長90cmになり,胸びれと腹びれがなく,黄褐色地に黒褐色の不規則な横紋が並ぶ。本州中部〜フィリピンの浅海の岩礁にすみ,日本のウツボ類中最も普通。地方名ナダ,ナマダなど。性質が荒くて歯は鋭く,かまれると非常に痛い。食用とする所もあり,皮が厚いためなめし皮にもする。ほかにトラウツボ,アミウツボなどが知られる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウツボ」の意味・わかりやすい解説

ウツボ
Gymnothorax kidako

ウナギ目ウツボ科の海水魚。全長約 80cm。体は細長く,側扁し,胸鰭を欠く。体色は黄褐色で,暗褐色の不規則形の横帯がある。歯は幅広く強大。肉食性で性質は荒く,潜水時の要注意動物。浅海の岩礁の間に生息するが,ときに岩礁性潮だまりにもみられる。地域により食用に供する。日本にみられるウツボ類の最普通種。本州中部以南からフィリピンに分布する。

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ダイビング用語集 「ウツボ」の解説

ウツボ

岩陰やサンゴのすきまなどに住むウツボは、本来臆病な性質を持った魚で、人間を攻撃することはない。しかし生息域を侵略されるとその鋭い歯を持った口で攻撃してくることがあるので、むやみに岩の間などに手を差し入れないこと。

出典 ダイビング情報ポータルサイト『ダイブネット』ダイビング用語集について 情報

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