エイブリー(読み)えいぶりー(英語表記)Gillian Elise Avery

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エイブリー」の意味・わかりやすい解説

エイブリー
えいぶりー
Gillian Elise Avery
(1926―2016)

イギリスの児童文学作家、研究家、評論家、編集者。サリー州に生まれる。1952年、ビクトリア時代に詳しい学者A・O・J・コックシャットAnthony Oliver John Cockshut(1927―2021)と結婚。一女の母。『サーリー・ミラー』紙記者、百科事典の編集などを経て、1957年から執筆活動に入る。寄宿学校を抜け出し、オックスフォードのあるカレッジの学寮長をしているおじを訪ねた少女マライアが、偶然出会った事物について自ら探求し発見し学んでいく『学寮長の姪(めい)』The Warden's Niece(1957)を第一作として、後期ビクトリア朝を時代背景に、オックスフォードやマンチェスターを舞台とする作品が多い。物語は写実的で、社会や家庭の状況は古いが、時代と場所への関心と知識、また、当時の子どもへの理解と共感をもって書かれており、人間と社会に対する観察と洞察、さらにユーモアの感覚もあって、現代の読者にも広く訴える力をもつ。『谷間の呼び声』(1961)は貧しい少年サムが苦難に耐え、誇りをもって生き抜き幸せをつかむ。1972年にガーディアン賞を受賞した『がんばれウィリー』(1971)は、小柄で内気な少年ウィリーが、自助努力によって自分の店をもつに至った父親の望む道とは異なる志を抱き、それを実現していく物語で、19世紀末のマンチェスターの労働者階級生活心情をよく描いている。

 大人向けの小説もあるが、『ユーイング夫人』Mrs.Ewing(1961)、『19世紀の子供たち』Nineteenth Century Children:Heroes and Heroines in English Children's Stories 1780-1900(1965)、『生活と文学に見るビクトリア時代の人々』Victorian People in Life and Literature(1970)などの評論のほか、ユーイング夫人の作品や、『窓辺椅子で』In the Window Seat:A Selection of Victorian Stories(1960)をはじめとした19世紀の子どもの本の復刻、『子供のための名詩選』The Everyman Anthology of Poetry for Children(1994)などの編集の仕事が多く、『子供時代の死はどのように描かれてきたか』Representations of Childhood Death(1999)では一部執筆もしている。1987年から1989年まで児童文学史協会Children's Books History Society会長を務めた。

松野正子

『塩屋太郎訳『谷間の呼び声』(1973・岩崎書店)』『松野正子訳『がんばれウィリー』(1977・岩波書店)』『ピーター・ハント著、さくまゆみこ他訳『子どもの本の歴史・写真とイラストでたどる』1、3章にエイブリーの評論が訳出(2001・柏書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エイブリー」の意味・わかりやすい解説

エイブリー
Avery, Oswald

[生]1877.10.21. カナダ,ハリファックス
[没]1955.2.20. アメリカ合衆国,テネシー,ナッシュビル
カナダ生まれのアメリカ合衆国の細菌学者。フルネーム Oswald Theodore Avery。免疫化学を創始した一人。1904年コロンビア大学で医学の学位を取得。1913年からロックフェラー医学研究所病院に勤務し,肺炎双球菌(→レンサ球菌)の毒性および抗原性について研究。菌の表面を覆っている莢膜が菌のもつ毒性の原因であり,また菌に対する抗体産生のための抗原としても働くことを明らかにした。その後,莢膜が多糖類からできていることをつきとめたが,これは抗原としての多糖類の重要性を示す最初の観察であり,免疫化学の礎石の一つとなった。同じく肺炎双球菌を用いて,形質転換に関する重要な研究も行なっている。莢膜のない菌株が,莢膜をもつ菌から取り出した物質と接触することにより,莢膜を有する菌株へと形質を変化させることは知られていたが,エイブリーは 1944年に,マクリン・マカーティ,コリン・マクラウドとともに,形質の転換を起こさせる物質がデオキシリボ核酸 DNAであることを証明した。これは,形質の決定が DNAによって行なわれることを示し,遺伝子の実体が DNAであることを証拠立てる事実であった。しかし,遺伝子の実体を蛋白質とみる風潮が支配的であったために,発表当時は注目されることがなく,1950年代に入ってからその意義が認められるようになった。

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