エックハルト(読み)えっくはると(英語表記)Meister Johannes Eckhart

デジタル大辞泉 「エックハルト」の意味・読み・例文・類語

エックハルト(Johannes Eckhart)

[1260ころ~1327]ドイツ神学者ドミニコ会士。一般にマイスター=エックハルトとよばれる。神秘主義の代表的人物で、魂と神との神秘的合一を説いたが、死後の1329年、教皇によって異端と断罪された。

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精選版 日本国語大辞典 「エックハルト」の意味・読み・例文・類語

エックハルト

  1. ( Johannes Eckhart ヨハネス━ ) ドイツの神学者。ドミニコ派神秘主義の代表者。死後、その汎神論的傾向は異端とされた。著に「神の慰めの書」がある。(一二六〇頃‐一三二七

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「エックハルト」の意味・わかりやすい解説

エックハルト
えっくはると
Meister Johannes Eckhart
(1260ころ―1327/1328)

中世ドイツの神秘主義思想家。中部ドイツに生まれ、ドミニコ会に入ってケルン、パリなどに学ぶ。のちザクセン地区管区長(1303)、ボヘミア地方副司教(1307)など会の要職にあって、その管轄下の尼僧院の霊的指導をゆだねられていたと考えられる。またパリ、ケルンの大学でも教えた。同じドミニコ会の先駆者アルベルトゥス・マグヌスに続くスコラ学者であるとともに、説教者としても大きな感化を及ぼしたのは、こうした多面的な活動による。ドイツ語による説教、論説は多くの写本として流布し、ラテン語の著作とともに、その思想を知る重要な資料をなしている。晩年、なんらかの理由からケルンの大司教による告発を受け、1329年、その著作からとられた28の命題が、教皇ヨハネス22世の教書で異端的と宣告された。しかしその思想は弟子タウラーやゾイゼHeinrich Seuse(1295?―1366)らに継承され、中世から近世へかけて、多くの神秘主義思想の源流となった。

 総じて彼の神秘主義は、キリストとの愛の合一を説く情感的なものではなく、知的、思弁的な色彩が強い。その中心をなすのは「魂の根底」または「魂の火花」の概念である。人が純粋に神を念じ、自己を脱却していくならば、ついには神がつねに心に現前するようになる。これが「魂(の根底)における神(の子)の誕生」であり、神と自己との合一にほかならない。しかもこの神は、伝統的な人格神というよりは、それを超えた「神性」である。このように人格的神をも突破して「神性の無」に到達しようとするところに、エックハルトの背景をなす新プラトン主義的な否定神学影響をみることができる。さらに、ただ瞑想(めいそう)に沈潜するにとどまらず、神との合一から進んで現実の活動に立ち向かうことが求められる。ここに、一部はその時代精神とも関連した活動性を認めることができる。

[田丸徳善 2015年1月20日]

『エックハルト著、相原信作訳『神の慰めの書』(1949・筑摩書房/講談社学術文庫)』『上田閑照編『ドイツ神秘主義研究』(1982・創文社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「エックハルト」の意味・わかりやすい解説

エックハルト
Johannes Eckhart
生没年:1260-1328

ドイツ神秘主義の代表的思想家。Meister Eckhartの尊称で知られる。中部ドイツ,チューリンゲン地方のホーホハイムに生まれ,若くして托鉢修道会ドミニコ会に入る。パリ大学およびドミニコ会のケルン神学大学に学ぶ。以後同修道会において,エアフルト修道院長,ザクセン管区長,総会長代理などを歴任し中枢的な実践的指導者として活動。他方トマス・アクイナスをつぐすぐれたスコラ学者・神学者としてドミニコ会よりパリ大学に講義のため3度派遣され(その間1302年神学博士号を受ける),最晩年にはケルン神学大学の学頭をつとめる。

 彼の最も大きな影響は1314年ころからシュトラスブルクとケルンを中心にして,修道士修道女および在俗信者に向かってドイツ語でなされた活発な説教活動による。彼にとって説教とは,当時歴史の大きな変動の中で,アリストテレス哲学による理性主義の勢いと,他方神との直接の合一のうちに自由を求める教会外での民衆の激しい宗教運動とにはさまれていたキリスト教信仰が,その生命を新しくする思想の現場であった。その思想の哲学的基盤はトマスに沿った主知主義的スコラ哲学であるが,思弁的神秘主義といわれるように,その上で新プラトン主義が神学的思弁を導き,そして〈魂の内における神の子の誕生〉というキリスト教神秘主義の根本的テーマが説教の核心をなしている。しかもエックハルトは神の本質との完全なる一致のためにさらに神という想念をも離れるべきことを説く。このような説教のうちに危険な影響力を見た教会当局は,遂にエックハルトの没後29年3月,その基本的諸命題の異端性を宣告した。しかしエックハルトの精神は直弟子J.タウラーおよびH.ズーゾーを通して受けつがれ,ドイツ神秘主義の系譜をなして生きつづけた。人格神への伝統的信仰が困難に出会い,また東西両世界が深く触れ合いつつある現代,彼の思想があらためて注目されている。
ドイツ神秘主義
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百科事典マイペディア 「エックハルト」の意味・わかりやすい解説

エックハルト

通称マイスター・エックハルトMeister Eckhart。ドイツ神秘主義を代表する神学者,ドミニコ会士。ドイツ中部,ホーホハイム生れ。アルベルトゥス・マグヌスに学び,パリ,シュトラスブルク,ケルンなどで教える。死後の1329年,異端宣告を受けた。トマス・アクイナスの主知主義に沿いつつも,新プラトン主義と民衆的信仰復興に鼓吹されたその思想は,神との神秘的合一を果たすには神の想念をも離れるべきと説く独創的なもので,近年再評価の気運が高い。《神の慰めの書》《修練講話》のほか,多くの説教が残る。
→関連項目ゾイゼタウラードミニコ会

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エックハルト」の意味・わかりやすい解説

エックハルト
Eckhart, Meister Johannes

[生]1260頃.ホッホハイム
[没]1328頃.アビニョン
ドミニコ会士。 14世紀ドイツ神秘主義の最高峰をなす哲学者。 1293年パリに学び,1304年ドミニコ会ザクセン管区長。 14年以後シュトラスブルク (ストラスブール) ,次いでケルンで教授,説教活動。 26年異端の嫌疑を受け,29年には著作中の 28ヵ所が有罪とされた。ドミニコ会士としてアリストテレスの伝統を受継いだ反面,アウグスチヌス,プロチノス,偽ディオニュシオス,モーゼス・マイモニデスの影響を受けて,浄化を通しての「魂の火花」による神との意志的な神秘的合一を説いた。また当時ドイツで最も人気ある説教家であった彼はドイツ語で著作し,多くの抽象語彙をドイツ語に加え,後世に大きな影響を与えた。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「エックハルト」の解説

エックハルト
Johannes Eckhart

1260?~1328?

ドイツの哲学者。ドミニコ修道会員。ケルン,パリで新プラトン主義,神秘思想を学び,ライン地方で遊説したが,異端の疑いを受け,宗教裁判中に死んだ。その著作はヨハネス22世によって異端とされた。

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367日誕生日大事典 「エックハルト」の解説

エックハルト

生年月日:1664年9月7日
ドイツの歴史家
1730年没

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世界大百科事典(旧版)内のエックハルトの言及

【神秘主義】より

…愛の合一は,魂と言(神の子)との霊的婚姻と考えられ,この考えは以後とくにビンゲンのヒルデガルトなどの中世女流神秘家によって体験的に深められていった。 13世紀末,14世紀初めになるとエックハルトを中心とするドイツ神秘主義の運動が起こり,近世初頭にいたるまで大きな直接的影響を与えた。エックハルトは神秘的合一のうちでさらに神の本質にまで透入し,純なる〈一〉との一,〈一の一なる一ein einic ein〉に徹しようとする。…

【タウラー】より

エックハルトゾイゼとならぶ中世ドイツの神秘家。ドミニコ会士。…

【ドイツ神秘主義】より

…中世後期から近世にかけて,一連の系譜をなすドイツ人神秘家たちによって担われたキリスト教神秘主義の歴史的形態。狭義には,14世紀前半のエックハルトゾイゼタウラーを中心にした活動とその思想をさし,広義には,その3者以前のビンゲンのヒルデガルトやマクデブルクのメヒティルトMechthild von Magdeburg(1210ころ‐82か94)などの女性神秘家たち,および3者以後その精神をさまざまな変容において継承・展開したニコラウス・クサヌスベーメ,さらにはドイツ・ロマン主義のノバーリス,ドイツ観念論のフィヒテ,シェリングなどに及ぶ精神的系譜を総称する。ドイツ神秘主義は,キリスト教史の枠を越えてヨーロッパ精神史を貫流する一大潮流をなしている。…

【ドイツ文学】より

…ハンス・ザックスらの職匠歌もこれと同じ基盤から生まれる(マイスタージンガー)。その一方散文は別の次元に育ちはじめ,法書《ザクセンシュピーゲル》がドイツ語で書かれたのが一つの実験となって,エックハルトなどの神秘思想家が思弁的表現の領域にこれを活用するようになり,ルターやミュンツァーなどの宗教改革者の論説によって深く民衆に浸透する。ルターの聖書翻訳と印刷術の発明が統一的な文章語の成立と普及に大きな役割を演じ,宗教改革と農民戦争に際して配布された多数のビラ,それにまた《ティル・オイレンシュピーゲル》などの民衆本も,それを助長する効果があった。…

※「エックハルト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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