鉄ポルフィリン酵素の一つ。ペルオキシダーゼ(過酸化酵素)と同様に、過酸化水素2分子から水2分子と酸素1分子ができる反応を触媒する酵素で、嫌気性生物を除くほとんどすべての生物に存在する。結晶化され、その1分子に4個の鉄(Fe3+)をもつ。分子量は22万~26万。種によってアミノ酸配列に多少の相違があるが、いずれも四つのサブユニットで構成されており、ドデシル硫酸ナトリウムsodium dodecyl sulfate(SDS)存在下で単量体が得られる。ヘムとマンガンを補因子として用いる。カタラーゼとペルオキシダーゼは、ヒドロペルオキシダーゼhydroperoxidaseという共通の名称が与えられている。カタラーゼは
H2O2+H2O2→2H2O+O2
の反応を触媒し、ペルオキシダーゼは
H2O2+R(OH)2→2H2O+RO2
の反応を触媒すると考えられている。すなわち、二つの反応は類似性があり、過酸化水素の水と酸素へのカタラーゼによる分解は、ペルオキシダーゼの特殊な反応と理解される。動物組織の過酸化物の分解はカタラーゼによって触媒される。カタラーゼは有害な過酸化物が蓄積するのを防ぐために存在すると信じられている。カタラーゼ活性は肝臓、赤血球、腎臓(じんぞう)でとくに強い。各臓器のカタラーゼは分子種が異なり、またたとえば肝カタラーゼだけについても多様性がみられる。肝臓や腎臓の細胞内では、主としてペルオキシソームとよばれる細胞小器官に、過酸化水素を発生する反応を触媒するほかの酸化酵素と共存している。赤血球では、ヘモグロビンを酸化による失活から防御していると考えられている。3%過酸化水素水(オキシフル)で傷口を消毒すると泡立つのは、赤血球に含まれているカタラーゼによって過酸化水素から酸素が発生するためである。カタラーゼ1分子は1分間に500万分子の過酸化水素を分解するが、その速さは酵素反応中最大である。植物ではカタラーゼ活性はきわめて低いが、ペルオキシダーゼが存在し、同様の機能をもっている。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)は分子量4万4000で、その1分子に1個の鉄を含む。
スーパーオキシドラジカルのような有害な誘導体は、保護酵素が除去する。O2が1個の電子で還元されると、スーパーオキシドアニオンsuperoxide anion(O2-)という常磁性をもつラジカルを生じる。ヒドロペルオキシルラジカルhydroperoxyl radical(HO2-)は一般に自動酸化により生じた過酸化物が分解するときに生成するが、アルカリ性でプロトン(陽子)を失うとスーパーオキシドアニオンとなる。これは、もう1個のヒドロペルオキシルラジカルと反応して過酸化水素(H202)を生じる。スーパーオキシドアニオンはスーパーオキシドジスムターゼsuperoxide dismutaseに触媒され、酸素分子と過酸化水素になる。この酵素は、これらのラジカル2個を過酸化水素と分子状酸素に変換する反応を触媒する。すべての好気性生物に存在するスーパーオキシドジスムターゼにより、また、ヒドロペルオキシルラジカルが酵素触媒なしに自然に反応して生じる過酸化水素は、カタラーゼにより除去される。
1947年(昭和22)に耳鼻咽喉(いんこう)科医高原滋夫(たかはらしげお)(1908―1994)は、カタラーゼをもっていない人がいることを発見し、翌1948年、体質異常として報告した。こうした人は普通の人と同様に健康であるが、幼時に口中がただれやすい傾向(特殊な進行性壊疽性口腔炎(えそせいこうくうえん))がみられ、傷口にオキシフルをつけても泡立たず、傷口の血液が黒褐色に変色する。これは無カタラーゼ血症とよばれる常染色体潜性遺伝疾患である。この病気の発生頻度は非常に小さく、日本人では0.001%以下といわれる。また、癌(がん)患者では肝臓でのカタラーゼ活性が正常人に比べて落ちるが、原因はわかっていない。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]
『L・L・イングラハム、D・L・マイヤー著、松尾光芳訳『酸素の生化学――二原子酸素反応の機構』(1991・学会出版センター)』
EC 1.11.1.6.過酸化水素を分解し,水と酸素を生成する反応を触媒する酵素.
2H2O2 → 2H2O + O2
ヘムタンパク質の一種.動物,植物,大部分の好気性細菌に存在し,ウシ,ウマ,ブタなどの肝臓,赤血球,そのほかから結晶化されている.分子量2.4×105,1分子当たり4個のプロトヘムを有する.生理的意義については,本酵素活性のない無カタラーゼ症の患者が,大きな支障もなく生活できるなどはっきりしない.[CAS 9001-05-2]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新