和名でカリンと呼ばれる植物には,マメ科のカリン(花櫚)とバラ科のカリン(花梨)とがあり,しばしば混同されるが,同名異物である。
(1)花櫚Pterocarpus indicus Willd. 東南アジアからニューギニアにかけて広く分布するマメ科の樹木で,その木材がシタン(紫檀)やコクタン(黒檀)とともにいわゆる唐木(からき)の一つとして知られる。高さ35~40m,直径1~1.5mになる高木で,低く厚い板根(ばんこん)をもつ。葉は7~9枚の小葉のある羽状複葉で互生する。花は黄色で,円錐花序に咲く。果実は1個の種子を囲んで径約5cmの円形の翼がある乾果。木材は心材部分が紅褐色~帯赤暗褐色を示し,やや濃淡があって美しい。気乾比重約0.62で重硬なシタンやコクタンにくらべて工作しやすく,また乾燥時の収縮率が小さいため狂いにくい。古くから床柱など建築装飾材,家具,細工物,彫刻,楽器(三味線胴など)に賞用され,今日では和風,洋風を問わず高級材としての用途が広い。カリン材には本種のほか,東南アジア産のPterocarpus属数種の木材も含まれている。
Pterocarpus属の和名をシタン属とし,P.indicusをインドシタンと呼ぶ場合がしばしばみられるが,シタンと呼ばれているのは実際はDalbergia属の木材であり,また本種はインドには分布しないので,この和名はよくない。中国で本種に印度紫檀の漢名を与えたのが混乱のもとになっていると思われる。
執筆者:緒方 健(2)花梨Chaenomeles sinensis Koehne(=Pseudocydonia sinensis Schneid.) カラナシ,キボケともいう。盆栽や庭木に利用する樹皮の美しいバラ科の落葉樹。中国の原産で,現在では日本や朝鮮半島でも栽植されている。日本へは江戸時代に中国から渡来したといわれるが,正確な年代は不明である。落葉性の高木で7~8mになる。成木になるとうろこ状をした樹皮が自然にはげおち,そのあとが雲紋状となる。4月下旬~5月上旬に淡紅色の花をつける。果実は楕円形~倒卵円形で,秋に黄色となって熟し,芳香を放つ。果皮は滑らかである。果皮に細かい毛のあるマルメロと混同されることが多い。長野県諏訪地方でいわれるカリンはマルメロのことである。果肉が硬く生食に適さない。砂糖漬や果実酒の原料に用いる。熟果は芳香を放つので部屋において香りを楽しむことがある。中国では2000年前から漢方薬として用いられ,乾果は煎じて咳止めに利用する。木は盆栽や庭木とし,神社や寺院によく栽植されている。
執筆者:志村 勲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
バラ科(APG分類:バラ科)の落葉高木。中国名は榠樝。高さ7~10メートル、径35センチメートルになる。樹皮は緑褐色、滑らかで、薄片になってはげ、落ちたあとが雲紋状になる。葉は互生し、倒卵形ないし楕円(だえん)状卵形、長さ3~8センチメートル、先はとがり、基部は円く、縁(へり)に細鋸歯(さいきょし)がある。裏面は主脈に軟毛があり、葉質はやや堅い。4、5月、淡紅色で径3~3.5センチメートルの5弁花を枝先に単生する。花弁は楕円形、萼筒(がくとう)は倒円錐(とうえんすい)形で毛がなく、萼裂片は5枚で反り返り、内面に綿毛がある。雄しべは約20本で花弁より短い。花柱は3~5本あり、基部は合着して毛がある。果実は楕円形ないし倒卵形、長さ約10センチメートルのなし状果となり、秋に黄色に熟し、平滑で芳香がある。中国中部原産で、平安時代には日本に渡来していたという。適湿地でよく育ち、耐寒性があり、剪定(せんてい)もでき、盆栽、庭園樹にする。繁殖は実生(みしょう)、挿木、取木もするが、実生台に接木(つぎき)すると開花、結実するのが早い。果肉は堅くて酸味と渋味があって生食はできないが、氷砂糖を入れた焼酎(しょうちゅう)に漬けてカリン酒をつくり、砂糖と生薑(しょうきょう)(ショウガ)をともに煮つめた汁を固めて「かせいた」という菓子にする。また、輪切りにして砂糖とともに煎(せん)じて、鎮咳(ちんがい)、利尿の薬にする。材は心材が暗紅褐色で美しく、堅くて粘り強いので、床柱、家具、彫刻などに使われる。
名は、材の木目が東南アジアに産するマメ科のカリン(花櫚)に似ているからという。長野県などでカリンと称して生食したり、菓子、ジャムなどにするものは、果実の表面に綿毛のあるマルメロである。
[小林義雄 2019年12月13日]
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…人口25万(1994),都市域人口43万(1994)。古くはアルメニア人の居住地カリンQarinで,4世紀以降,主教座がおかれていた。5世紀前半テオドシウス2世が都市を建設(テオドシオポリスTheodosiopolis)。…
※「カリン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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