カルテル(英語表記)cartel

翻訳|cartel

デジタル大辞泉 「カルテル」の意味・読み・例文・類語

カルテル(〈ドイツ〉Kartell)

同一業種の各企業が独占的利益を得ることを目的に、競争を避けて価格の維持・引き上げ、生産の制限、販路の制定などの協定を結ぶ連合形態。日本では独占禁止法で禁止されている。企業連合
[類語]トラストコンツェルンシンジケート

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「カルテル」の意味・読み・例文・類語

カルテル

  1. 〘 名詞 〙 ( [ドイツ語] Kartell ) 同一産業部門の企業間で、価格、生産量などを協定して市場における競争を制限、排除し、利潤を確保しようとするもの。参加企業は相互に独立性を保持する点でトラストと異なる。原則的には独占禁止法で禁止されるが、不況カルテル合理化カルテルなど適用除外がある。企業連合。〔外来語辞典(1914)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「カルテル」の意味・わかりやすい解説

カルテル
cartel

企業間の明白なあるいは暗黙の協定により価格の決定その他の企業行動を相互に制約して,市場における競争を制限する企業の協調行動をいう。かつては企業連合という訳も行われたが,現在ではほとんど使われない。少数の企業で構成される寡占産業においては,企業はその行動の決定にあたって当該行動が競争相手に与える影響と競争相手の反応を推測したうえで行動せざるをえないが,その推測には不確実性が伴う。競争相手の反応についての推測に伴う不確実性の存在は,寡占産業における価格引下げ競争等の企業間の熾烈(しれつ)な競争をひき起こすことともなる。また多数の企業が存在する原子的競争産業においても,需要や費用条件など企業の環境条件の変化への適応(調整)過程で企業の倒産その他の摩擦が生ずるおそれがある。こうした事態を回避するために市場における競争の制限が試みられるが,企業がその行動についてあらかじめ情報を交換(意思を疎通)し,企業間の利害の調整を図って結成されるカルテルは,その有力な一つの手段である。市場における競争を制限する効果をもつ点ではカルテルと同様であるトラストコンツェルンが,その行動を決定する主体が一元的である〈固い結合〉であるのに対して,カルテルの場合これに参加する企業が独立の意思決定の主体として存続する〈ゆるい結合〉である点,またカルテルが同一の市場(一定の取引分野)に係る企業で構成されるものである点にその特徴があり,カルテルを〈ゆるい水平的結合〉ということができる。

カルテルにおいては,企業の意思決定の対象であってかつ市場における競争に影響を与える事項が,協定の対象となりうる。カルテルをこのような事項に従って大別すれば,価格カルテル数量カルテル販売制限カルテルに分けられるであろう。価格カルテルは,価格水準または価格体系についての協定である。数量カルテルには,生産量を制限する生産カルテル,在庫の保有量を制限する在庫カルテル,設備投資量を制限する投資カルテルなどがある。これらは短期または長期の供給量を制限する効果をもつものである。販売制限カルテルとは,販売する製品の種類・品質・規格を統一するための標準化カルテル,支払条件・配送条件・アフターサービス等の販売条件を制限する販売条件カルテル,販売地域あるいは買手について制限を課す販路カルテルなどをいう。カルテルのうち,カルテル組織が価格と各企業の供給量を決定し,利潤をプールしてこれを事後的に各企業に配分するものを利潤分配カルテルという。また各企業の製品を一元的に販売する組織あるいは機能をもつカルテルをとくにシンジケートと呼んでいる。このような一元的な意思決定が可能なカルテルの市場競争を制限する効果は,独占企業のそれにより近いものとなる。なお国際市場を対象として各国の企業間で結成されるカルテルは国際カルテルといわれる。国際カルテルにおいても,主として価格,生産数量,販路について協定がなされるが,特許等のライセンスや技術提携に付随して行われることが多い。

カルテルは〈不況の子〉といわれるように,不況期にしばしば結成される。不況期には,需要の停滞による超過供給から価格の低落が生ずる。固定費比率の高い寡占産業では,価格の引下げによる販売量の維持ないし拡大によって固定費負担の軽減を図ろうとする誘因が強く作用する結果,一般に価格引下げ競争に陥りやすい。また原子的競争産業でも,多数の企業は自己の行動が競争相手に及ぼす影響を考慮せずに価格の引下げによって販売量を維持しようとする結果,価格水準の大幅な低下をひき起こしがちである。不況期における価格競争は,産業全体の利潤率を低下させることとなるが,こうした事態を回避するためにカルテルの結成が志向される。ところで,このようにカルテルが志向されるとしても,それがつねに成立し存続するというわけではない。というのは,カルテルが独立した意思決定の主体である各企業の利害の調整のうえに成立し,その限りにおいて存続するものであるからである。価格カルテルについていえば,カルテル価格をどのような水準に定めるかという点で,費用条件や需要の将来の見通しなどに関して企業間で差異が大きければ各企業にとっての最適な価格は異なるであろうから,企業間の利害を調整することは必ずしも容易ではない。また仮に利害が調整されて価格カルテルが成立したとしても,各企業にとってはカルテル価格を多少とも下回る価格で販売量を拡大しようとする誘因が存在する。カルテルに参加している企業のうちのいずれかの企業がこのような誘因から価格を引き下げれば,他の企業もこれに追随する結果,カルテルは崩壊する。一般にカルテルが成立・存続しやすい条件を大別すれば,企業の〈同質性〉と企業の環境条件の〈安定性〉に分けられるであろう。ここで企業の同質性とは,製品が同質である(製品差別化の程度が低い)こと,企業数が少数であること,各企業のマーケット・シェア(市場占有率),費用条件,製品構成(多角化の程度)の差異が小さいこと,である。また企業の環境条件の安定性とは,需要の成長・変動が小さいこと,需要の価格弾性値が小さいこと,技術進歩など費用条件の変化をもたらす機会が乏しいこと,参入障壁が高いこと,カルテルに参加しないアウトサイダーが存在しないこと,を意味する。これらの条件が満たされているほど,一般に価格カルテル等のカルテルは成立・存続しやすいといえよう。さらにカルテル組織自体が,カルテルの存続のために,カルテル参加企業の行動を監視し協定に違反する行動に対して制裁を科すといった措置や,アウトサイダーに対して略奪的価格引下げやボイコットなどの排他的行動をとることがあるが,これらの措置や行動が有効に機能するほどカルテルは存続しやすい。

企業間の協定等により市場における競争を制限する行動自体は,中世のギルドの時代はもとよりギリシア・ローマの時代にもみられたものであるが,近代におけるカルテルの動向についてみると,19世紀後半以降とくにドイツにおいて多数の産業分野でカルテルが結成されている。〈カルテルの母国〉といわれるドイツでは,近代的なカルテルが1862年にブリキ産業で結成されているが,19世紀末までには石炭,鉄鋼,化学(苛性カリ,窒素,リノリウム,製塩など),セメント,ねじ,ガス・コークスなどの産業でカルテルが結成されている。その多くはシンジケートの形態をとるものであったが,1893年に結成されたライン・ウェストファーレン石炭シンジケートは,西部ドイツの石炭生産のほとんど大部分を支配する強固なカルテルであり,この時期のカルテルの動向を代表するものであったといえよう。

 イギリスでもギルド組織から発展した先駆的カルテルが早くから結成されている。石炭産業におけるニューカスル・ベント(1771-1845)は,ロンドン石炭市場を独占していた強固なカルテルとして有名であるが,これは,16世紀末から始まるニューカスル地方の石炭生産者のカルテルに,これと競合関係にあったサンダーランド地方の石炭生産者を加えて新たに結成されたものである。アメリカにおいても,南北戦争以後19世紀末までの間,鉄鋼業をはじめ多くの産業で〈プール〉と呼ばれるカルテルが結成されている。このようにイギリス,アメリカでもカルテルの結成が早くからみられたのであるが,ドイツの場合19世紀末以降カルテルが独占組織として本格的な発展を遂げていったのに対して,英米両国においてはむしろトラストないしトラスト的大企業が発達するという方向をたどったのである。

 日本においては,1890年(明治23)に大日本紡績同業連合会の指導のもとに行われた紡績業における操業短縮が近代的カルテルのはじめであるといわれている。1907年以後の不況期には,紡績業以外の産業でも製紙,製糖,製麻,製粉,マッチなどの産業でカルテルの結成をみたが,その後は鉄鋼,石炭などの重工業部門でもカルテルが結成されている。とくに大正末期から昭和初期にかけて〈重要輸出品工業組合法〉〈輸出組合法〉〈重要産業統制法〉などのカルテル助長法が制定されたこともあり,昭和初期には重要産業分野をはじめ多くの産業でカルテルが成立した。

カルテルは,最適規模に達しない過小規模企業を温存させ,また需要構造の変化や技術進歩への対応を遅滞させるなどの弊害をもたらすおそれが大きく,カルテルに対してはほとんどの国でなんらかの規制が行われている。すでに中世からイギリスのコモン・ローにおいては,カルテル等の取引制限は私法上無効であるとされ,被害についての損害賠償が認められていたが,カルテルについて協定の破棄,行為者の処罰など積極的な措置がとられる現代のカルテル規制は,1890年のアメリカのシャーマン法(〈アンチ・トラスト法〉の項目参照)の制定に始まるものである。このような意味での本格的なカルテル規制が行われるようになったのは,日本をはじめ西ドイツ,イギリスなどほとんどの国では第2次大戦後であるといえよう。カルテル規制のタイプを大別すれば,カルテルの結成を原則的に禁止する原則禁止型と,カルテルによる市場支配力の濫用を規制する弊害規制型に分けることができる。アメリカ,西ドイツ,日本などの規制は前者に,イギリス,オランダ,北欧諸国などの規制は後者に属する。第2次大戦後の日本においては,独占禁止法の制定によりカルテルは原則的に違法な行為とされたが,違法(やみ)カルテルがしばしば摘発されている。違法カルテルに対する課徴金の制度が設けられるなど近年カルテル規制は強化される傾向にあるが,他方では特定の政策目的からカルテルを容認する政策も行われている。不況カルテル,輸出入カルテル,合理化カルテルをはじめ,特定の産業において容認されているカルテルなど,いわゆる独占禁止法の適用除外カルテルがこれである。さらに産業所管官庁によるいわゆる行政指導によって生産・設備等の調整がしばしば行われている点は,カルテル規制との関連で注目すべき点である。
カルテル法 →独占禁止法
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「カルテル」の意味・わかりやすい解説

カルテル

企業連合とも。トラストコンツェルンと並ぶ独占の一形態。同一産業の独立した数企業が市場統制を目的としてある経営活動について協定を結ぶもの。販売価格の下限を定めた価格カルテル,生産量を制限した生産カルテル,販売地域を割り当てた地域割当てカルテル,原価計算の方法を定めた計算カルテルなどの形態がある。カルテルの最高の段階がシンジケート。日本,米国等では独占禁止法で原則として禁止。→合理化カルテル国際カルテル不況カルテル
→関連項目アウトサイダー管理価格企業集中協定産業合理化シャーマン法重要産業統制法操業短縮鉄鋼業独占資本NIRAメジャーライン・ウェストファーレン石炭シンジケート

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「カルテル」の解説

カルテル

生産制限・最低価格・販路・生産分野などの協定を通じて市場の安定をはかる独立企業間の組織。加盟企業の規模・生産性が均等でシェアが高いこと,実効力のある制裁規定を備えていることなどが成立の条件となる。1880年(明治13)の製紙連合会が先駆とされるが,同業組合的性格が強く,明確な市場規制は90年の紡績連合会の操業短縮活動が最初といえる。1920年代後半から鉄鋼・金属などの主要産業に普及し,重要産業統制法の制定をみた昭和恐慌期にはほぼ全産業に拡大した。第2次大戦中は政府の配給・価格統制を代行する統制団体の中心となる。戦後は独占禁止法制定により原則的に違法となったが,行政指導や適用除外立法を通じて多くの分野で形成された。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「カルテル」の解説

カルテル
Kartell

同業者が利益を大きくするために協定を結ぶ企業の連合団体
販売価格・生産制限・販売競争制限などを協定。日本では1880年製紙(所)連合会,'82年紡績連合会を先駆とし,日露戦争後にかなり出現し,第一次世界大戦後に急増。第二次世界大戦中は統制手段とされ,戦後独占禁止法で禁止された。

出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「カルテル」の解説

カルテル
Kartell (ドイツ)

企業独占の一形態で,企業連合のこと
競争による不利益を避けるため,企業が生産や販売などについて協定を結び,市場を支配して独占利潤をあげるしくみ。企業の独立性を認める点でトラストと異なる。19世紀末から保護主義をとるドイツ・アメリカなどで発展した。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「カルテル」の解説

カルテル
Kartell[ドイツ],cartel[英]

鉄鋼,石炭など一定の産業部門で多数の業者が資本的連携でない契約によって結合し,市場を独占的に支配する形態をいう。1873年の不況の際ドイツで誕生したが,1900年の恐慌以後,一般化した。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のカルテルの言及

【アンチ・トラスト法】より

…主な規制内容は次のとおりである。 シャーマン法1条および連邦取引委員会法5条により,カルテル(企業間の話合いで相互の競争を制限する行為,たとえば話合いによる一斉値上げ,生産制限など)は禁止されている。アメリカのAT法はカルテルの禁止に関してはきわめて厳格で,輸出,海運,防衛,協同組合等少数の適用除外例を除いては,カルテルは全面的に禁止されている。…

【企業】より

…これは集中の方法によって以下の三つの形態に分けられる。(a)企業連合は,二つ以上の独立企業が協定によって相互に結合する形態で,市場統制の目的をもって形成される企業連合がカルテルである。(b)企業合同は,各企業が独立性を放棄して,完全に一体となって結合する形態で,市場統制を目的として形成される企業合同がトラストである。…

【独占】より

…また,市場の売手側に独占が生じることが多いので,経済学は売手独占を分析することが多かったが,最近では買手独占にも関心がもたれている。
[独占力と独占の形態]
 一定の商品の地理的に限定された市場における独占力が独占力の基礎的概念であり,この独占力を発揮する目的でカルテルトラストという形態の独占が形成される。法律的に独立な複数の企業が協定を通じて,生産,投資,顧客などを割り当て,価格を固定して,競争を制限することをカルテルという。…

【不当な取引制限】より

…主要な要件は,事業者が他の事業者と共同して,その事業活動を相互に拘束しまたは遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することである(独占禁止法2条6項)。端的にいえば,合意によって競争を制限するいわゆるカルテル行為である。制限される競争の態様によって,価格,生産制限,市場分割等々の各種の〈不当な取引制限〉が存在する。…

【プライス・リーダーシップ】より

… いずれのケースでも,価格先導者となる企業が長期にわたってその地位を維持しつづけるか否かは,先導者と他企業との関係を決定している技術的条件,需要の動向および参入の可能性に依存する。またプライス・リーダーシップのもとで形成された価格の水準が,競争的な価格とどれほど異なるかは,価格先導者がカルテルのリーダーとみなしうるか否かにかかっている。一般にカルテルを隠密に維持しつづけることはきわめて難しいので,プライス・リーダーシップのもとでの価格を,独占価格に近いものとみなすことは単純にすぎるといわれている。…

※「カルテル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android