カルテル法(読み)カルテルほう

改訂新版 世界大百科事典 「カルテル法」の意味・わかりやすい解説

カルテル法 (カルテルほう)

カルテル助成政策にもとづく法律の一般的呼称。第2次大戦以前の日本においては,後述するように,1925年の輸出組合法以来のカルテル法の歴史があった。しかし戦後占領政策の中心に日本経済の民主化方針がすえられ,その一環として独占禁止法が制定されたため,法体系中におけるカルテル法の意義,位置づけに根本的な変革が加えられた。まず47年制定当初の独占禁止法は,カルテルの原則禁止という厳格な競争政策に依拠するものであったため,戦前・戦中のカルテル法はすべて廃止された。この状況は,52年の平和条約発効,すなわち占領の終了まで続いた。同年,〈特定中小企業の安定に関する臨時措置法〉と輸出入取引法が制定され,そのなかでそれぞれ独占禁止法の適用除外強制カルテルに代わる措置としての規制命令の規定がおかれることにより,戦後のカルテル法の歴史が再開し,その後,同種の規定を有するカルテル法が多数定められて今日に至っているが,これらはすべて独占禁止法に対する適用除外法となっている点に,現在の日本のカルテル法の基本的地位が現されている。フランスやイギリスに代表されるカルテルの弊害規制主義を採る国々が,日本の独占禁止法に該当する競争促進法のなかでは,カルテル自体を違法視せず,経済的弊害を生ずるカルテルのみを禁ずるのに対し,日本は,アメリカ,ドイツ等とならんで,独占禁止法はあくまでもカルテルの原則禁止の立場を貫き,これを中心とする法体系が形成されている。カルテル法は,経済政策上とくに必要があると認められた場合に限り,立法による独占禁止法の適用除外をなす法として位置づけられる,と一般的に理解されているのである。ただこれについては,日本の独占禁止法のカルテル禁止の文言が〈公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限する〉カルテルを禁ずる形となっていることを根拠に,独占禁止法はカルテルの原則禁止の立場に立たず,適用除外立法なしに適法なカルテルの形成が可能だ,とする説もある。

 日本のカルテル法の端緒は,1925年の輸出組合法,重要輸出品工業組合法とされる。この2法はカルテルに加入していないアウトサイダーの規制を世界で初めて定めた立法で,アウトサイダーに対しカルテル協定の遵守を命ずることができた。その後,昭和恐慌を経て第2次世界大戦に進む過程で,より強力なカルテル助長政策に根ざすカルテル法がつぎつぎと制定された。そのうち31年の〈重要産業ノ統制ニ関スル法律〉(略称重要産業統制法)は,日本の産業を全般的に国家権力によってカルテル化し,統制することを目的としたもので,統制服従命令規定(2条)によりアウトサイダー規制がなされた。具体的には,統制協定(カルテル協定)参加者の2/3以上の申請のあることを条件に,主務大臣が当該産業の公正な利益の保護と国民経済の健全な発展のために必要があると認定した場合には,統制協定の加盟者および非加盟者に対し,協定に従うべきことを命じうるという形式をとっている。しかし同法によるカルテル助成は,まだカルテルの強制設立,強制加入,当然加入という方式を採ってはおらず,完全な強制カルテル法とはいえなかった。より完全な強制カルテルを実現したのは,31年の工業組合法(重要輸出品工業組合法の改正),商業組合法(1932公布),37年の貿易組合法(輸出組合法の改正),工業組合法・商業組合法の商工組合法への改正(1943公布),国家総動員法にもとづく重要産業団体令による統制会等々であった。

 戦後のカルテル法制定の動きは,53年の独占禁止法改正で不況カルテルと合理化カルテルを独占禁止法自体が適用除外としたことで,いっそうのはずみがついた。昭和30年代を通じての日本の高度成長のなかで,輸出入取引法,輸出水産業の振興に関する法律,繊維工業設備臨時措置法,機械工業振興臨時措置法,石炭鉱業合理化臨時措置法,電子工業振興臨時措置法等々の貿易関係カルテル,不況カルテル,合理化カルテル法が制定され,さらに中小企業安定法に代表される中小企業政策としてのカルテル法,航空法・保険業法に代表される運輸,金融保険カルテル法等が続けて制定され,この時期,実態的にはカルテルの原則禁止という独禁法の理念が,ほとんど骨抜きになったと評された。1965年前後から,物価問題の深刻化に伴うカルテル法の見直しが政策課題として重要となったこと等もあり,カルテル法の数的増大はみられなくなった。昭和50年代に入ってからは,石油危機後の低成長のなかで構造的不況産業問題がクローズアップされ,特定不況産業安定臨時措置法(1978公布)が構造不況カルテル法として制定された(83年に全面改正され,特定産業構造改善臨時措置法と改称されたが,88年に廃止)。

 独占禁止法体制のもとでのほとんどのカルテル法は,戦前と異なり,強制設立,強制加入,当然加入をなすものではない。わずかに,〈中小企業団体の組織に関する法律〉が加入命令を定めている程度である。ただしカルテルに代わる規制命令を法律で定める例は少なくなく,これによって強制カルテル的機能が果たされるのである。また今日では,OECDを中心に先進資本主義諸国の間で,貿易の不均衡是正のために産業に対する行政的援助を積極的調整政策positiveadjustment policy(PAP)の分野に限ろうという動きが強くなっており,諸外国が日本のカルテル法を産業への過剰保護として批判する傾向もみられる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のカルテル法の言及

【経済法】より

… これらの錯綜した諸原理を体現する経済法規もまた多種多様なものとなるのは自然の勢いであるが,これらを便宜上三つのカテゴリーに分類して,検討しよう。その第1は,競争法(独占禁止法)であり,第2は,カルテル法であり,第3は,経済統制法である。このほかにも,第2と第3の中間型態と思われるものもあり,単純に一つのカテゴリーのなかに組み入れることが適切ではないものもある。…

※「カルテル法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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