近代資本制社会において,価格はふつう生産者による供給と消費者による需要がバランスする水準で決まる。たとえば1000円である商品を売り出したとしても,そんな価格ではとうてい買手がつかないとなれば,値下げすることになるであろう。逆に,買手が殺到して店頭で品切れにでもなれば,値上げを考えるかもしれない。このように,需要と供給の関係で価格が変化するためには,実は同じものが他でいくらでも売られており,安ければ欲しがる買手がいくらでもいる完全競争の状態が前提になっている。これらの前提が満たされていない(競争が完全でない)場合に,需要と供給の変化に直接的には左右されない(めったに値下げなどがない)価格を管理価格と呼ぶことがある。たとえば公正取引委員会の定義によれば,管理価格とは,〈市場が寡占状態にあることを原因として生ずる需要やコストの変動に対して下方硬直的な価格で,カルテルによる価格操作や,政府による価格支持制度等を伴わないもの〉(公正取引委員会事務局編《管理価格》)とされている。言葉をかえていえば以下のようになる。巨額の資本や高度な技術が必要なため少数の企業しか参入できないような産業において,企業は需要が減ったとしても,費用が低下したとしても,価格を引き下げたりしないことがある。カルテルによって価格操作を行っていたり,政府による価格支持制度がある場合は,このような現象は当然のことであるが,これらの要因では説明できない価格の動きを管理価格と呼ぶわけである。
1970年代において,日本ではアルミ地金,写真フィルム,ビール,ピアノ,化学調味料などの産業で管理価格が設定されているといわれていた。このような管理価格の設定がインフレの原因とみられる場合,管理価格インフレと呼ばれることがある。これに対しては,独占禁止法の運用等により,管理価格形成要因である寡占対策を講ずべきであることはいうまでもない。
→寡占
執筆者:武蔵 武彦
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寡占企業の市場支配力に基づき、需要や供給などの市場の要因からは独立に人為的に決定される価格をいう。完全競争市場では需給関係により価格が決定され、個々の企業はこの市場で決定される価格に基づいて生産計画をたてるプライス・テーカーprice taker(価格受容者)の立場にある。これに対して寡占企業は、自らの製品の価格をある程度の自由裁量によって決定することができるプライス・メーカーprice maker(価格設定者)の立場にあり、価格は市場条件の変化とはある程度独立して企業により管理されている。管理価格は、市場構造、新企業の参入の可能性、需要条件などの長期的要因を考慮して目標利潤率を決め、それを実現しうるように価格を設定するフルコスト・プライシングfull-cost pricing(マークアップ・プライシングmark-up pricing)やターゲット・プライシングtarget pricingなどにより決定される。このような方式により設定される価格は、需要の短期的変動、操業度の変化、原材料価格の多少の変化が生じても、ただちには変更されない。すなわち、価格硬直性をもつのが特色である。さらに寡占企業はその市場支配力により費用の増加を価格に転嫁しがちであり、また市場の需給条件からしては当然下がるべき価格を下げようとはしない。したがって、管理価格は一般に下方に硬直的であり、上方には伸縮的である傾向がある。このような管理価格の傾向がもたらすインフレーションを管理価格インフレとよぶ。
管理価格ということばは、アメリカの経済学者G・C・ミーンズが1935年に上院に提出した報告書のなかで初めて用いたものである。彼は、一定期間における価格変化の頻度を価格の伸縮性の程度を示す尺度と考え、アメリカ経済には、需給の変動に敏感であるかなり伸縮的な価格のグループと、非伸縮的であり企業により管理されている価格のグループが存在することを報告し、とくに工業製品の価格は下方に硬直的であり、管理価格は製造業に支配的な特徴であるとみなし、集中度の高い産業の製品の価格ほど管理されているという仮説を提示した。この仮説には多くの批判があり、G・スティグラーとJ・K・キンダールは、1961年から66年までの期間をみると、高度に集中化されている市場では、製品価格はミーンズが示すほどには硬直的ではなく、むしろ伸縮的でさえあると論じている。
[内島敏之]
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