市場における競争の過程で、しだいに少数の企業に資本と生産が吸引されたり、企業が相互に結合したりすることを企業集中という。資本主義の経済は、企業間の自由競争を原動力としてダイナミックな発展を遂げる。このような市場における競争の結果、企業間に優勝劣敗の差が生ずることは避けられない。通常、大企業は設備内容や、宣伝・販売の力において優れているから、中小企業より競争上有利である。競争が激しくなったり、景気が悪くなったりした場合には、優良企業と弱小企業との差が大きくなり、前者が後者を吸収合併したり、生き残るための企業相互の合併などが多くなる。また、不況時における競争の激化などにより、市場価格が低下することを防ぐため、多数の企業が協定して市場価格を維持したり、そのための生産制限を行ったりするカルテルを結ぶ場合もある。いずれにせよ資本主義の経済は、市場競争を通じて絶えず企業間の自然淘汰(とうた)を促し、企業合併や企業結合を促進し、少数の企業への経済力集中の過程を進行させることになる。
[御園生等]
企業集中の形態は、その結合の形態によって次のように分類される。
(1)水平的結合と垂直的結合 同種の業務を営む企業相互間の結合を水平的結合、関連した業種を縦に結ぶ企業間結合を垂直的結合という。たとえば同業種間の合併を水平的合併、原材料生産部門と加工部門、二次製品部門との合併を垂直的合併という。水平的結合は同業種間の結合であるから、同一の市場において競争を行っている企業間の結合である。したがって、それが合併という形の結合であれ、協定による結合であれ、結合企業間の競争は消滅するわけであるから、程度の違いはあるがなんらかの競争の減殺になる。これに反し、垂直的結合は、直接競争に影響はない。ただし、垂直的合併によって一貫生産を行うようになったり、原材料生産企業や二次製品生産企業と専属(排他的契約)系列を結んだりすることによって、単独企業に対し競争上有利な地位にたつことが可能である。また、他の業務を営む企業を次々と併合して、いわゆるコングロマリットになり、競争上有利な立場にたつ場合もある。
(2)独占的結合と非独占的結合 同業種に属する多くの企業が協定により結合する場合はカルテルであり、同じく合併によって独占的企業体となる場合はトラストである。これに対しコンツェルンは、異なった業種の企業を結合した多角的総合的企業集団をいう。戦前のわが国における財閥、アメリカのロックフェラー・グループ、モルガン・グループなどがその好例である。カルテル、トラストがそれ自体、市場における独占を目的とした結合体であるのに対し、コンツェルンの場合は、結合それ自体により独占的になるわけではないが、コンツェルンに属する企業がいずれも巨大企業であり、単独でも独占的な地位をもっているわけであるから、これらの大企業を総合したコンツェルンも、単独の企業に比べて隔絶した力をもち、独占的な結合体となる。
これに対し、技術提携、業務提携など、一定の業務について他の企業と協力、提携する場合などは、それ自体は独占的性格をもつものとはいえない。しかし、これらの非独占的結合も、多数の企業を結合することによって、独占的な結合に転化する場合もある。技術提携が、排他的なパテントや、ノウハウの許諾契約グループ、いわゆるパテント・プールに発展する場合などである。
なお、コンビナートは、本来、生産過程を複合的に結合した企業体というロシア語であるが、わが国では産業技術的な関連企業間の多角的生産協力体をいう場合が多い。石油化学コンビナートなどの場合である。
[御園生等]
『上林貞治郎・井上清・儀我壮一郎著『現代企業形態論』(1962・ミネルヴァ書房)』▽『占部都美著『経営形態論』(1958・森山書店)』▽『篠原三代平・馬場正雄編『現代産業論2 産業組織』(1974・日本経済新聞社)』▽『古賀英正著『支配集中論』(1952・有斐閣)』
企業集中には,一般集中と市場集中の二つの概念がある。一般集中とは,一国の経済全体において少数の大企業がどの程度の地位を占めているかを示すもので,通常,資産や売上高,雇用者数で測った上位百大企業(あるいは二百大企業,五百大企業など)が,一国全体の資産や売上高,雇用者数に占める割合,もしくは,ある一定規模以上の企業が全体に占める割合であらわされることが多い。少数の大企業に一国の経済が集中してしまうことは,経済的にも民主主義の健全な発展のためにも好ましくない。もう一つの市場集中は,特定の市場における集中をみるもので,販売における集中をあらわす売手集中と,購買における集中をあらわす買手集中の二つがある。市場集中,とりわけ売手集中は参入障壁,製品差別化とならんで市場構造の基本的な要因をなし,当該産業における市場行動,市場成果に影響をおよぼす。ある産業における売手集中度は通常,上位1社ないし3社,5社,10社などの売上高の合計が産業全体に占める割合であらわされることが多い。このほかにも,統計的な指数としてハーフィンダール指数Herfindahl index(特定商品における個別企業の集中度を2乗したものを合計したもの)が用いられることもある。上位1社の市場集中度が100%のときは,独占となる。
→市場構造
執筆者:後藤 晃
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…1970年に最高裁大法廷は株主の請求を棄却),寄付等会社のなす無償供与をどこまで株主に開示すべきかは,企業秘密の問題ともからんで,商法改正の際にしばしば大きな問題となっている。(5)企業集中 株式会社では,資本多数決の原理により株式の過半数を所有する者が経営を掌握することになるが,株式が広く分散すると,株主総会で多数を制するためには必ずしも過半数を所有する必要すらない。そこで,株式会社が他の会社の株式を所有する方法を積み重ねることにより,多くの会社が一つのグループに統合されうる。…
…多産業にわたって構成されたピラミッド型支配構造がコンツェルンであり,同一産業内のそれがトラストである。持株会社による企業集中は,アメリカではコモン・ローによって違法とされた受託者トラストに代わる形態として,19世紀末から20世紀初頭にかけて盛んに行われたが,1914年のクレートン法(アンチ・トラスト法)によって設立に制限が設けられた。USスチール社は1901年に設立された代表的な持株会社であった。…
※「企業集中」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
東海沖から九州沖の海底に延びる溝状の地形(トラフ)沿いで、巨大地震発生の可能性が相対的に高まった場合に気象庁が発表する。2019年に運用が始まった。想定震源域でマグニチュード(M)6・8以上の地震が...
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