改訂新版 世界大百科事典 「カンディド」の意味・わかりやすい解説
カンディド
Candide
ボルテールの風刺小説。1759年刊。副題〈楽天主義〉が暗示するようにライプニッツなどの楽天的世界観を嘲笑するとともに,当時の社会的不正・不合理を告発している,啓蒙思想家ボルテールの〈哲学的コント〉の代表作。主人公カンディドはウェストファリアの叔父男爵の館で,師パングロス博士の〈すべては最善の状態にあり〉,したがって現状は正しいとする教えを受け,それを信じて疑わない純真な(フランス語で〈カンディド〉)青年である。いとこキュネゴンド姫を恋して館を追われた彼が各地で遭遇するのは,戦争,病苦,遭難,大地震,宗教裁判,拷問,暴行である。途中出会ったパングロスから叔父の館も兵火で灰に帰したのを知る。ポルトガルでキュネゴンドに再会し,2人は南米に向かうが,ここでも待ち受けているのは災難であり,2人は別れ別れになる。カンディドは桃源郷〈エル・ドラド〉にたどりつくが,恋人を忘れられず,キュネゴンドを求め旧大陸に戻り,苦難の末に今は醜く気難しくなったキュネゴンドや,相変わらず楽天主義を固執し続けるパングロスに再会し,ささやかな農園を経営し生計を立てることになる。その悲惨な体験や,さまざまの社会的不合理にもかかわらず,主人公が無為や厭世思想にくみせず,人間社会の改善への意欲を失っていないのは,〈だが,わが庭をたがやさなければならぬ〉という有名な結びの句が示している。笑いを通して知性に訴える,明快でしんらつなテンポの速い文体を魅力とするボルテール流風刺の典型ともいうべき作品である。
執筆者:中川 信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報