ガラス状態(読み)ガラスじょうたい(英語表記)glassy state

改訂新版 世界大百科事典 「ガラス状態」の意味・わかりやすい解説

ガラス状態 (ガラスじょうたい)
vitreous state

液体を急激に冷却すると,融点以下になっても結晶固体にならないで,過冷却液体の状態になるものがある。この状態からさらに冷却すると,ある温度の近くで,ふつうの熱活性化過程から考えられるよりも急激に粘性が大きくなって,固体状態になるとともに熱膨張率や比熱などが,ほぼ不連続に変化する。この変化をガラス転移glass transitionと呼び,この温度以下の状態がガラス状態で,非晶質状態の一種である。ガラス転移は純粋な熱力学的な相転移ではなく,ガラス転移温度は急冷速度に多少依存する。われわれの身近に多く使われているケイ酸塩ガラスなどのいわゆるガラスは,ガラス状態の代表的な物質である。

 ガラス状態は液体状態を凍結して得られるので,その中の原子配列は乱雑で,これが結晶固体との大きな相違点となっている。したがって,ガラス状態への学問的な興味は,原子配列の大きな乱れが,結晶と異なるどのような性質を与えるかという点にある。例えば,ガラス状態では,電子が乱れのために繰り返し強く散乱されて動けなくなることにより,電気的性質が結晶の場合と異なってくる。このような局在状態にいる電子は,熱エネルギーの助けを借りて次々に跳び移っていく過程により電気を運ぶ。これをホッピング伝導hopping conductionと呼ぶ。温度が下がるほど熱エネルギーの助けを借りにくくなるため,エネルギー差の小さい場所をさがして,遠くへ跳ぶようになり,ホッピングの確率は小さくなる。このような過程は,exp[-(T0/T1/4](Tは絶対温度,T0定数)のような特徴的な温度依存性をもつ電気伝導度を与える。また,1K以下の低温で,ガラス状態の物質は結晶と異なる特徴的な比熱を示す。結晶の場合,低温での比熱は絶対温度の3乗に比例する(デバイの比熱式)が,ガラス状態では,1K以下で,絶対温度に比例する比熱を示す。この異常な比熱の値は多くのガラス状態の物質に共通し,あまり組成に依存しない。したがって,ガラス構造の個々の詳細によるものではなく,ガラス状態における乱れの構造の本性に関連した性質と考えられている。結晶の場合と異なり,ガラス状態では原子の位置が一義的に決まらず,構造に多様性があることがその原因である。
ガラス →非晶質固体
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガラス状態」の意味・わかりやすい解説

ガラス状態
がらすじょうたい
glassy state
vitreous state

適当な条件下で液体を急速に冷却し、結晶化させずに固化した過冷却状態をいう。液体における原子、分子イオンなどの無秩序な配列がそのまま、あるいは部分的に保持された構造をとり、流動性が極度に低下した液体であるともいえる。

 普通にガラスとよばれるケイ酸塩ガラスのほか、硫黄(いおう)、セレン、金属の酸化物、硫化物、硫酸塩、各種アルコール、水、糖、高分子化合物などのガラス状態が知られている。ガラス状態の物質では、エンタルピー、圧縮率、比熱などの値が、ある温度領域で不連続的に変化する現象(ガラス転移)が観測される。ガラス状態での物質の構造は無定形あるいは非晶質であり、結晶とは異なり、熱力学第三法則に従わず、0Kのエントロピーは0にはならない。氷、メタノール(メチルアルコール)、シクロヘキサノールなどの結晶においても、ガラス状態の物質と同じように、0Kでのエントロピーが0とならないことが知られているが、それらの結晶は部分的にガラス状態を保有しているものとして、大阪大学の関集三(1915―2013)によって、ガラス性結晶glassy crystalと命名されている。

[岩本振武 2015年7月21日]

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化学辞典 第2版 「ガラス状態」の解説

ガラス状態
ガラスジョウタイ
vitreous state

物質の固体状態の一種.過冷却液体が転移点以下の温度域で 1013 P(ポアズ,1 P = 10-1 kg m-1 s-1)以上の粘度にある状態.過冷却液体状態を含めていうことがある.原子配列に長距離の規制性を欠き,等方性,温度変化に伴い,ほぼ 1020~107 P の範囲でその粘度を連続的にかえ,ガラス化範囲内で化学組成を連続的にかえることが可能などの特徴をもっている.Iを単位体積の液体から1秒間に析出する結晶核の数,uを結晶核の成長速度として,ある液体のIu3の平均値が 10-12 s-4 で,かつその転移点が溶融点より100 ℃ 下にあり,10 ℃ min-1 より冷却速度が大きければ,液体はガラス状態になると考えられている.固体状態では典型的な脆性破壊を示すが,転移点付近では特有の粘弾性をみせる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ガラス状態」の意味・わかりやすい解説

ガラス状態
ガラスじょうたい
glass state; glassy state

融解液体の温度を徐々に冷却すると,普通は一定温度で結晶化して固体となる。しかし,このような結晶化をせず,冷却とともに次第に粘度を増し,明確な凝固点を示さずに無定形状態に固化する場合もある。これをガラス化現象といい,このときに得られる状態をガラス状態という。分子の配列状態はむしろ液体に近くて近距離秩序性しかもたないが,機械的性質は固体に類似している。ガラス状態は熱力学的には準安定状態であると考えられ,結晶状態に比べて自由エネルギーは高いが,高粘度のため結晶化に必要な分子配列が妨げられている。したがって,ガラス状態は過冷却状態の1種であるといえ,熱や光によってその性質を変えやすい。

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世界大百科事典(旧版)内のガラス状態の言及

【ガラス】より

…この温度をガラス転移点と呼ぶ。融点とガラス転移点との間では,過冷却液体としての性質を示し,ガラス転移温度以下をガラス状態と呼び,固体としての性質を示す。ガラス状態になる物質は多く,最近では,冷却速度が十分速ければすべての物質はガラス化すると考えられている。…

※「ガラス状態」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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