ガンフリント生物群(読み)がんふりんとせいぶつぐん(英語表記)Gunflint biota

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガンフリント生物群」の意味・わかりやすい解説

ガンフリント生物群
がんふりんとせいぶつぐん
Gunflint biota

ガンフリントチャートGunflint chertとよばれる黒色チャートから産出する微小な生物体と考えられる化石群。ガンフリント微植物群Gunflint microfloraともよばれた。このチャートは、カナダ、オンタリオ州のスペリオル湖岸に露出する先カンブリア時代のガンフリント層の基底部に発達する。ガンフリントチャートは約20億年前に堆積(たいせき)したと推定されている。チャートの薄片や、フッ化水素酸で表面を処理した試料の電子顕微鏡による観察を通して発見、報告された。発見当初、8属12種が識別された。これらのうちもっとも多いのは直径1マイクロメートル前後で、長さはまれに数百マイクロメートルに達するフィラメント構造をもつ化石であり、今日の藍藻(らんそう)類や鉄バクテリアに似ている。このほかに、直径1マイクロメートルから十数マイクロメートルの球状で、一部は藍藻類やその胞子に似るもの、フィラメントが放射状に発達した星状のもの、直径20~30マイクロメートルの傘やパラシュートを連想させるものなど、さまざまな形態のものが報告されている。これらの微小な化石は、南アフリカの約30億年前のフィグトリー層中や、オーストラリアの約9億年前のビタースプリングス層中の微小な生物体と考えられる化石群とともに、地球上における生命発生生物進化のごく初期のようす、そして初期の地球環境の変遷史を明らかにするうえで重要な手掛りを与えてくれる。

[谷村好洋]

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改訂新版 世界大百科事典 「ガンフリント生物群」の意味・わかりやすい解説

ガンフリント生物群 (ガンフリントせいぶつぐん)
Gunflint biota

カナダのオンタリオ州スペリオル湖岸に分布するガンフリントチャートから多量に産出する微化石群で,約19億年前の化石とされている。1954年,E.S.バーグホーンとS.A.タイラーがスペリオル湖北岸のシュライバーからこの微化石を報告したのが端緒となって,世界各地の先カンブリア時代の地層から化石が発見されるようになり,この時代の生物相に関する知識は著しく増大した。微化石を含むこのチャートはガンフリント鉄鉱層の最下部にあたり,オンタリオ州で東のシュライバーから西のガンフリント湖まで,8~23cmの厚さで180kmにもわたって分布している。化石はすべて顕微鏡的な微化石で,その多くは0.6~1.6×数百μmの繊維状をしたラン藻とされ,3属4種が同定されている。それらは現生のユレモ属に類似し,現生種にみられる異質細胞や特殊な生殖細胞アキネートakineteと同一の細胞が存在していたらしい。そのほか,大きさ1~16μmにわたる球状のラン藻,鉄マンガン酸化バクテリアに似た形態の生物,カカベキアKakabekiaと命名されたパラシュート形の,20μm程度の構造などが発見されている。カカベキアは化石として報告されて後に,ウェールズ,アラスカ,アイスランド,ハワイなどの土壌中でそれに似た形態の原核細胞の微生物が見つかった。また,28~32μmの大きさで,中心の大型細胞を小さな細胞が取り囲んでいるエオスフェラEosphaeraと命名された構造が見つかっているが,分類上の位置はわかっていない。現在までに報告されたラン藻を含む8属12種の微化石は,すべて原核生物であり,この時期には真核生物は出現していなかったと考えられている。
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