キシレン(読み)きしれん(英語表記)xylene

翻訳|xylene

デジタル大辞泉 「キシレン」の意味・読み・例文・類語

キシレン(xylene)

芳香族炭化水素の一。ベンゼン水素二つをメチル基置換したもの。オルトメタパラの3種の異性体がある。有毒で引火性のある無色透明の油状液体。石油の改質油から抽出される。塗料・有機溶剤合成樹脂などの原料にする。化学式C6H4(CH32 キシロールザイレンジメチルベンゼン

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精選版 日本国語大辞典 「キシレン」の意味・読み・例文・類語

キシレン

  1. 〘 名詞 〙 ( [ドイツ語] Xylen ) 芳香族炭化水素の一つ。化学式 C6H4(CH3)2 無色透明の油状液体。オルトキシレンメタキシレン、パラキシレンの三種の異性体がある。ガス軽油、コールタール軽油などに含まれ、石油の改質油から抽出してつくる。ガソリン成分としてオクタン価が高い。引火性があり有毒。有機溶剤、各種フタル酸原料、合成樹脂、合成繊維原料、分析試薬などに広く用いられる。キシロール。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「キシレン」の意味・わかりやすい解説

キシレン
きしれん
xylene

芳香族炭化水素の一つ。キシロール、ザイレン、ジメチルベンゼンともよばれる。o(オルト)-、m(メタ)-およびp(パラ)-の3種の異性体が存在する。異性体の指定のない工業用キシレンはこの3種の混合物で、エチルベンゼンも含む。3種の異性体はいずれも芳香族化合物特有のにおいをもつ可燃性の液体である。

[向井利夫・廣田 穰]

製法

古くは石炭のガス軽油から得ていたが、最近では石油のナフサの接触リホーミングによって大規模に製造される。

 o-、m-、p-キシレンとエチルベンゼンの分離は、精密蒸留で行われるが、かなり困難である。工業的需要の多い異性体はp-およびo-キシレンなので、石油留分からこの二つを能率よく製造する方法や分離法がくふうされている。第一の方法は、1,2,3-トリメチルベンゼンを水素と高温(~800℃)に加熱してメチル基CH3-を一つだけ脱去する。第二の方法は、不均化法でトルエンをシリカ‐アルミナなど酸性触媒で加圧水素とともに加熱すると、キシレンとベンゼンの混合物に変化する(東レ法)。第三の方法は、原理的には不均化法と同じで、トリメチルベンゼンとトルエンから2分子のキシレンを得る。第四の方法は、混合物中のm-キシレンをo-およびp-キシレンに異性化する方法である。p-キシレンの融点が高いので、混合体を強く冷却(零下60~零下80℃)してp-キシレンを分離することができる(丸善石油の深冷法)。またm-キシレンをフッ化水素‐三フッ化ホウ素で錯体として分離する方法もある(日本瓦斯(ガス)化学法)。

[向井利夫・廣田 穰]

用途

工業用キシレンは90%がo-、p-体への異性化への原料として使われ、そのほかは塗料、溶剤に用いられる。o-キシレンは酸化して無水フタル酸に導かれ、エチレングリコールと脱水縮合させてポリエステルを製造するか、フタル酸ジオクチルDOP)などの可塑剤の製造に使われる。p-キシレンはコバルトマンガンなどの重金属触媒の存在下、空気酸化してテレフタル酸を製造する。テレフタル酸とグリコールから導かれるポリエステルが合成繊維のテトロンである。m-キシレンは酸化してイソフタル酸を製造しプラスチックの原料に用いられる。

[向井利夫・廣田 穰]



キシレン(データノート)
きしれんでーたのーと

キシレン
  C6H4(CH3)2
 分子式 C8H10
 分子量 106.2

o-キシレン
 融点  -25.18℃
 沸点  144.41℃
 比重  0.8802(測定温度20℃)
 屈折率 (n)1.50449

m-キシレン
 融点  -47.89℃
 沸点  139.10℃
 比重  0.8641(測定温度20℃)
 屈折率 (n)1.49712

p-キシレン
 融点  13.26℃
 沸点  138.35℃
 比重  0.8610(測定温度20℃)
 屈折率 (n)1.495822

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改訂新版 世界大百科事典 「キシレン」の意味・わかりやすい解説

キシレン
xylene

芳香族炭化水素の一つ。英米ではザイリンと発音する。ギリシア語のxylon(木材)に〈由来・起源〉を表す接尾語ēnēをつけて命名された語で,キシロールxylol,ジメチルベンゼンともいう。o-,m-,p-の3種類の異性体がある。

 いずれも可燃性の無色の液体で(燃えると芳香族化合物特有の濃いすすを出す),水にほとんど溶けず,エーテル,エチルアルコールなどに溶け,またキシレン自身も,溶解力の大きい優れた溶媒である。各異性体の物性値を,同じ分子式C8H10を有する構造異性体であるエチルベンゼンとともに表に示す。

 キシレンは石油ナフサの接触改質油や石炭のタール軽油に含まれる。現在の工業生産の主流は前者であり,接触改質油を溶剤を用いて抽出し,ベンゼン,トルエンなどとともにキシレン類を分離回収する。石油系キシレンは前述の各異性体のほかエチルベンゼンを含むので,それぞれを分離し,精製して合成化学原料として用いる。その分離法の一例をあげると,まず精密蒸留によって最も沸点の低いエチルベンゼンおよび沸点の高いo-キシレンを分離し,その残りを-60~-80℃に冷却してp-キシレンを結晶化して分離する。またキシレン混合物から溶媒(HF-BF3)や吸着剤(ゼオライト)を用いて,それぞれm-あるいはp-キシレンを選択的に分離する方法もある。混合キシレンは塗料溶剤としても用いられるが,大部分は上記の方法によって各異性体に分離し,合成化学的用途にあてられる。すなわち,o-キシレンは酸化して無水フタル酸を,p-キシレンはテレフタル酸を,またm-キシレンはm-キシレン樹脂を,それぞれ製造する。m-キシレンは,その需要が限られているので,o-またはp-キシレンに異性化したうえで利用されることが多い。
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化学辞典 第2版 「キシレン」の解説

キシレン
キシレン
xylene

dimethylbenzene.C8H10(106.17).C6H4(CH3)2.石油改質油中に大量に含まれる.また,石炭タール中にも存在する.o-,m-,およびp-キシレンの3種類の異性体があり,それぞれの沸点は接近しているので,これらを蒸留によって分離するには高度の精密蒸留が必要である.

工業的には,石油改質油から芳香族炭化水素を溶剤により抽出し,キシレン混合物の精密蒸留によってo-キシレンおよびエチルベンゼンを分け,-60~-70 ℃ に冷却してp-キシレンを結晶化させて大部分を分けとる方法,混合キシレンからゼオライトによりp-キシレンを選択的に吸着分離する方法などが行われている.3種類のキシレンの間には熱力学的な平衡があり,触媒を使ってある程度これらの間に異性化を行わせることが可能である.各キシレンは酸化してベンゼンジカルボン酸(フタル酸イソフタル酸およびテレフタル酸)にかえ,合成樹脂合成繊維の原料に用いられるが,とくにo-およびp-キシレンは需要が多い.また,キシレン混合物は,工業的に各種の溶剤として使われる.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キシレン」の意味・わかりやすい解説

キシレン
xylene

化学式 C6H4(CH3)2 。ジメチルベンゼン,キシロールともいう。最初に木タールから,次いで石炭タールから見つかった。現在では石油あるいは石油改質油から抽出される。工業原料として重要な芳香族化合物。2つのメチル基の位置によって,o 体,m 体および p 体の3種の異性体が存在する。沸点は o 体で 144℃,m 体で 139℃,p 体で 138℃。いずれも無色透明の油性液体。これら3種異性体とエチルベンゼンとの混合物は溶剤として用いられる。 o 体および m 体は酸化して,それぞれ無水フタル酸,イソフタル酸として合成樹脂原料に使われる。 p 体の酸化によって得られるテレフタル酸は合成繊維原料に大量に使われる。 o 体,m 体,p 体の混合物は,高級ガソリンの配合用としても用いられる。どの異性体も染料,その他の合成原料。

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百科事典マイペディア 「キシレン」の意味・わかりやすい解説

キシレン

化学式はC6H4(CH32。 芳香族炭化水素の一つ。ジメチルベンゼンとも。o‐体(融点−25.2℃,沸点144.4℃),m‐体(融点−47.9℃,沸点139.0℃),p‐体(融点13.3℃,沸点138.3℃)の3種の異性体がある。いずれも特有臭のある無色の液体。水に不溶,有機溶媒に可溶。有毒。溶剤として用いられるほか,酸化してそれぞれフタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸を製造する。石炭の乾留成分からも得られるが,現在では大部分がナフサから改質ガソリンやエチレン,プロピレン等を製造する際の芳香族留分より得られる。(図)
→関連項目化学物質過敏症石油化学フェルトペン

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