翻訳|xylene
芳香族炭化水素の一つ。キシロール、ザイレン、ジメチルベンゼンともよばれる。o(オルト)-、m(メタ)-およびp(パラ)-の3種の異性体が存在する。異性体の指定のない工業用キシレンはこの3種の混合物で、エチルベンゼンも含む。3種の異性体はいずれも芳香族化合物特有のにおいをもつ可燃性の液体である。
[向井利夫・廣田 穰]
古くは石炭のガス軽油から得ていたが、最近では石油のナフサの接触リホーミングによって大規模に製造される。
o-、m-、p-キシレンとエチルベンゼンの分離は、精密蒸留で行われるが、かなり困難である。工業的需要の多い異性体はp-およびo-キシレンなので、石油留分からこの二つを能率よく製造する方法や分離法がくふうされている。第一の方法は、1,2,3-トリメチルベンゼンを水素と高温(~800℃)に加熱してメチル基CH3-を一つだけ脱去する。第二の方法は、不均化法でトルエンをシリカ‐アルミナなど酸性触媒で加圧水素とともに加熱すると、キシレンとベンゼンの混合物に変化する(東レ法)。第三の方法は、原理的には不均化法と同じで、トリメチルベンゼンとトルエンから2分子のキシレンを得る。第四の方法は、混合物中のm-キシレンをo-およびp-キシレンに異性化する方法である。p-キシレンの融点が高いので、混合体を強く冷却(零下60~零下80℃)してp-キシレンを分離することができる(丸善石油の深冷法)。またm-キシレンをフッ化水素‐三フッ化ホウ素で錯体として分離する方法もある(日本瓦斯(ガス)化学法)。
[向井利夫・廣田 穰]
工業用キシレンは90%がo-、p-体への異性化への原料として使われ、そのほかは塗料、溶剤に用いられる。o-キシレンは酸化して無水フタル酸に導かれ、エチレングリコールと脱水縮合させてポリエステルを製造するか、フタル酸ジオクチル(DOP)などの可塑剤の製造に使われる。p-キシレンはコバルト、マンガンなどの重金属触媒の存在下、空気酸化してテレフタル酸を製造する。テレフタル酸とグリコールから導かれるポリエステルが合成繊維のテトロンである。m-キシレンは酸化してイソフタル酸を製造しプラスチックの原料に用いられる。
[向井利夫・廣田 穰]
芳香族炭化水素の一つ。英米ではザイリンと発音する。ギリシア語のxylon(木材)に〈由来・起源〉を表す接尾語ēnēをつけて命名された語で,キシロールxylol,ジメチルベンゼンともいう。o-,m-,p-の3種類の異性体がある。
いずれも可燃性の無色の液体で(燃えると芳香族化合物特有の濃いすすを出す),水にほとんど溶けず,エーテル,エチルアルコールなどに溶け,またキシレン自身も,溶解力の大きい優れた溶媒である。各異性体の物性値を,同じ分子式C8H10を有する構造異性体であるエチルベンゼンとともに表に示す。
キシレンは石油ナフサの接触改質油や石炭のタール軽油に含まれる。現在の工業生産の主流は前者であり,接触改質油を溶剤を用いて抽出し,ベンゼン,トルエンなどとともにキシレン類を分離回収する。石油系キシレンは前述の各異性体のほかエチルベンゼンを含むので,それぞれを分離し,精製して合成化学原料として用いる。その分離法の一例をあげると,まず精密蒸留によって最も沸点の低いエチルベンゼンおよび沸点の高いo-キシレンを分離し,その残りを-60~-80℃に冷却してp-キシレンを結晶化して分離する。またキシレン混合物から溶媒(HF-BF3)や吸着剤(ゼオライト)を用いて,それぞれm-あるいはp-キシレンを選択的に分離する方法もある。混合キシレンは塗料溶剤としても用いられるが,大部分は上記の方法によって各異性体に分離し,合成化学的用途にあてられる。すなわち,o-キシレンは酸化して無水フタル酸を,p-キシレンはテレフタル酸を,またm-キシレンはm-キシレン樹脂を,それぞれ製造する。m-キシレンは,その需要が限られているので,o-またはp-キシレンに異性化したうえで利用されることが多い。
執筆者:村井 真二+冨永 博夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
dimethylbenzene.C8H10(106.17).C6H4(CH3)2.石油改質油中に大量に含まれる.また,石炭タール中にも存在する.o-,m-,およびp-キシレンの3種類の異性体があり,それぞれの沸点は接近しているので,これらを蒸留によって分離するには高度の精密蒸留が必要である.
工業的には,石油改質油から芳香族炭化水素を溶剤により抽出し,キシレン混合物の精密蒸留によってo-キシレンおよびエチルベンゼンを分け,-60~-70 ℃ に冷却してp-キシレンを結晶化させて大部分を分けとる方法,混合キシレンからゼオライトによりp-キシレンを選択的に吸着分離する方法などが行われている.3種類のキシレンの間には熱力学的な平衡があり,触媒を使ってある程度これらの間に異性化を行わせることが可能である.各キシレンは酸化してベンゼンジカルボン酸(フタル酸,イソフタル酸およびテレフタル酸)にかえ,合成樹脂や合成繊維の原料に用いられるが,とくにo-およびp-キシレンは需要が多い.また,キシレン混合物は,工業的に各種の溶剤として使われる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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