クマザサ(英語表記)Sasa veitchii(Carr.)Rehd. (=S.albo-marginata Makino et Shibata)

改訂新版 世界大百科事典 「クマザサ」の意味・わかりやすい解説

クマザサ
Sasa veitchii(Carr.)Rehd. (=S.albo-marginata Makino et Shibata)

日本の庭や公園に観賞用に最もよく植えられているイネ科ササの一種。異名の辺(へり)取り笹(ざさ)が示すように,葉の縁が白く隈取りになるから隈笹という。熊笹ではない。またアタゴザサともいう。じょうぶで細長い地下茎があり,稈(かん)はよく茂り,やや斜上した根もとでまばらに枝分れし,上部は立ち上がり,高さは60~130cmである。タケの皮には粗い毛がある。節から通常1本の枝を出し,その先端部に5~7枚の葉をつける。葉は長楕円形で,長さは20cm余り,幅は5cmに達し,毛はなく,若葉のときは全体に緑色であるが,秋になると縁が黄色っぽくなり,冬には縁が枯れて白い隈取りとなる。まれに開花し,稈の基部から出る細長い花茎の先に円錐状の有限花序を出す。小穂はまばらに出た枝の先につき,長さ3cmくらいで,8個近くの小花がある。日本の特産で,野生のクマザサは京都の大原鞍馬に見られる。

 クマザサの属するササ属Sasaは,熱帯域で主として分化したタケ類のなかではもっとも北の寒冷な地域に適応し,小型化したもので,日本の温帯林の林床を特徴づけるものである。日本と近接した朝鮮やサハリンに数十種があり,中国の四川広東省に2種が知られている。ラテン語の属名Sasaは日本語のササの音訳で,牧野富太郎および柴田桂太の命名である。しかしこの日本の温帯林を特徴づけているササ類については,花があまり見られず(多くは数十年あるいは100年ほどに1回いっせいに開花する),葉の変異がひじょうに大きいため,研究は困難を極め,種の分類についても研究者の定説がまだなく,将来に待つところが大きい。

 ササ属のおもなものを挙げると,京都の比叡山から初めて記載されたミヤコザサS.nipponica Makino et Shibataはクマザサより全体が小さく,稈の高さは50~70cmで,葉は質が薄く,幅も狭く,3cm前後である。クマザサと同様に冬に隈取りとなる。積雪の少ない太平洋沿岸に分布し,その分布の限界線はミヤコザサ線と呼ばれ,太平洋型気候域を指標する。これに対してサハリン,千島から本州の日本海側の多雪地帯に分布するやや大型のササにチシマザサS.kurilensis Makino et Shibataや,チマキザサS.palmata Nakaiがある。チシマザサの稈は根もとが斜めに出て,上に向かって曲がり上部が立ち上がるからネマガリダケの別名があり,高さは1.5~3mにもなる。葉はクマザサに似るがほとんど隈取りにならない。たけのこが美味で食用にされるほか,じょうぶな茎は籠などの編み料とされる。チマキザサはサハリン,千島から朝鮮半島南部まで分布していて,葉はクマザサより大きく,長さは30cm余り,幅は8cmにも及び,5月の端午の節句のちまきを包むササとしてよく知られている。クマイザサS.senanensis Rehd.やオオバザサS.megalophylla Makino et Uchidaはチマキザサに似て葉の裏に毛があり,両者とも千島,サハリンから九州までに見られる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クマザサ」の意味・わかりやすい解説

クマザサ
くまざさ / 隈笹
[学] Sasa veitchii (Carr.) Rehd.

イネ科(APG分類:イネ科)のタケ・ササ類。観賞用として全国各地に栽培されるが、京都府の山地には自生種がある。稈(かん)は高さ1~1.5メートル、茎の中部以下で1節から枝が1本ずつまばらに出る。稈鞘(かんしょう)(竹の皮)に、長く、粗い開出毛が密生し、葉の裏に毛がないのが特徴。葉は線状長楕円(ちょうだえん)形で、長さ20~25センチメートル、幅4~5センチメートル、先は急にとがり、基部は円く、冬に縁(へり)が白く枯れて美しくくま取るので、クマザサの名がある。

[鈴木貞雄 2019年8月20日]


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百科事典マイペディア 「クマザサ」の意味・わかりやすい解説

クマザサ

日本南西部に野生するが,ふつう社寺,庭園などに植栽されるイネ科のササ。茎は基部でまばらに分枝し,高さ0.6〜1.3m,径3〜8mm。葉は枝先に4〜7枚掌状につき,狭長楕円形で先はとがる。葉身は薄くて革質,裏面は白っぽい。冬には縁が枯れて白色となり美しい(隈笹の名はこれによる)。まれに紫緑色の花をつける。なお熊笹はチシマザサなど山地にはえる大型のササの俗称。
→関連項目ササ(笹)チシマザサ

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