クモヒトデ(読み)くもひとで(英語表記)brittle-star

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クモヒトデ」の意味・わかりやすい解説

クモヒトデ
くもひとで / 蜘蛛海星
蛇尾
brittle-star

棘皮(きょくひ)動物門クモヒトデ綱に属する海産動物の総称。5本の腕をもち、クモのような動き方をするヒトデに似た動物。漢字の「蛇尾」は腕の外観や動きがヘビの尾に似ているところから名づけられたもの。つねに岩のすきま、転石の下、あるいは砂泥の中など、人目につかない所に生息する底生動物である。しかし、海洋生態系のなかでは重要な位置を占め、とくに砂泥中に生息するものはしばしば密生して大群集をなし、底生魚類などの餌(えさ)となる。棘皮動物のなかで種類数がもっとも多く、世界で1900種、日本近海から約280種が知られている。

[重井陸夫]

形態

体は丸い盤と細長い腕からなる。口は腹面の中心にあり、肛門(こうもん)はない。盤はヒトデより柔らかく、上面が革のような感じのものが多い。腕は丸くて細く、ヒトデとは違って、付け根が盤の部分からはっきり分かれて伸び出ている。腕の表面に多数の長い棘(とげ)をもつものもいる。腕は中心に骨の址(し)が入っていて硬いが、腕骨の一つ一つが筋肉で結ばれているため、しなやかに動く。ヒトデと違って腕の中に内臓は入っていない。盤の内部には袋のような大きな胃があり、腸はない。口の周りは硬くぎざぎざした骨からできていて、あごのようになっている。棘皮動物特有の水管系は盤の部分から腕の中へ伸び、管足が腕の下部側面に対(つい)に並んで突出している。クモヒトデの管足は触手とよばれ、先端に吸盤がなく、体の移動に用いられることはない。生殖孔はヒトデやウニのように体の上面にはなく、下面の腕基部に近いところに裂孔として開く。雌雄は普通異体であるが、同体のものも多い。雌雄異形で、雄が雌の10分の1ぐらいの大きさのものもある。色はさまざまで、茶褐色、黄褐色、黒褐色などじみなものが多いが、なかには鮮やかな赤や橙(だいだい)色、あるいは紫色色調を帯びたものもある。

[重井陸夫]

生態

体の移動には腕を用い、5本の腕を平面上にくねらしてはい進む。付着生物の枝などに絡まって生活するものでは、腕が四方に柔軟に曲がり、枝から枝へと腕をかけ渡しながら体を移動する。餌は小動物、腐食物、浮遊生物などで、生きた大形動物をとらえて食べることはない。浮遊生物をとるものは潮の流れの速い所の岩陰などに潜み、腕を3本、あるいは体全体を乗り出して小刻みに振る。そうすると、腕の側面に生えた棘のすきまや触手の表面の粘液に餌が付着する。餌は触手と繊毛流によって口のほうへと運んでいく。砂泥上にすむもののなかには、腕を輪にして腐食物をかき集めたり、腕を体の上に高く伸ばして振るものもいる。また、付着生物の個虫をかんで食べるものもいる。夜行性のものが多く、発光する種類もいくつかある。発光は腕の側面や棘の表皮にある発光細胞によって行われる。

 生殖方法はさまざまで、体が二つに割れて無性的に増えるものや卵胎生のものもあるが、多くのものは雌雄がおのおの放卵、放精を行い、海中で受精する。幼生はウニと同じプルテウス型で、浮遊生活を送ったのち、変態して底生生活に入る。保育習性をもつものもあるが、その場合には浮遊幼生期を経ず、生殖嚢(のう)内で直接発生して生殖嚢壁より栄養の補給を受ける。寿命は3年ぐらいのものが多いが、長いものでは10年以上と推定される。なお、クモヒトデ類のなかには、5本の腕の先が枝分れしてつる状に絡まるテヅルモヅルという異様な形をした動物群が含まれる。

[重井陸夫]


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改訂新版 世界大百科事典 「クモヒトデ」の意味・わかりやすい解説

クモヒトデ (蜘蛛海星)
brittle star

クモヒトデ綱Ophiuroideaに属する棘皮(きよくひ)動物の総称,またはそのうちの1種を指す。クモヒトデ類は世界中の海に広く分布し,潮間帯から6000mくらいの深さまですむ。ヒトデ類とは体の外部,内部構造ともに形態がかなり異なっている。体の中央にある小さい盤から細長い5本の腕を出し,その境界ははっきりしている。盤や腕の表面は小さな石灰質の板がうろこのように並んでいる。盤の下面中央に口があり,口の周囲と奥のほうに硬い骨片の歯が並んでいて,海底に積もっているごみや小さい動物を食べるが,二枚貝や巻貝を丸のみにする種類もある。盤の中は袋のような消化管で大部分占められており,肛門がないので,不消化物を再び口から出す。消化管は盤の中だけにあって,ヒトデ類のように腕の中までのびてはいない。腕の中心には腕骨が通り,それに水管系や筋肉があるが,消化管が入っていないため一般に細い。腕の側縁に沿って管足が1列ずつ並んでいるが,管足の先端は物に吸いつく吸盤になっておらず,もっぱら感覚器官の役をしている。腕が盤に付着する部分の筋肉がよく発達しているので,腕を使って移動したり,腕を振り回してプランクトンを集めて食べるものもある(ウデフリクモヒトデ)。また腕の先が何回も枝分れして複雑になっているものもある(オキノテヅルモヅル)。雌雄異体。多くは卵生で,浮遊生活をするオフィオプルテウス幼生を経て,変態し,底生生活に入る。ほとんどが自由生活をするが,ニシキクモヒトデが腔腸動物のイソバナの表面に巻きついて生活するように他の動物と共生する種類も多い。

 クモヒトデ(またはニホンクモヒトデ)Ophioplocus japonicusは北海道を除く日本全域の潮間帯にふつうに見られ,石の下などにすむ。全体は濃緑灰色で,腕にやや不規則な縞模様がある。盤の直径1.5cm,腕の長さは6cmほど。日光をきらう性質があるので,石を取り除くと急いで他の石の下に逃げ隠れる。
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百科事典マイペディア 「クモヒトデ」の意味・わかりやすい解説

クモヒトデ

棘皮(きょくひ)動物クモヒトデ綱の一群の総称。中央の丸い盤に5本の細長い腕があり,はう時これを動かして歩く様子がクモに似ているのでこの名がある。口は盤の腹面中央にあり,肛門はない。腕は切れやすいが再生する。多くは雌雄異体。多くは卵生で,浮遊性のオフィオプルテウス幼期を経て変態し成体となる。胎生の種もある。すべて海生で砂泥底に多く,浅海から6000mの深海に及ぶ。オルドビス紀から出現。
→関連項目棘皮動物ヒトデプルテウス

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