グッドイナフ(読み)ぐっどいなふ(その他表記)John B. Goodenough

デジタル大辞泉 「グッドイナフ」の意味・読み・例文・類語

グッドイナフ(John Goodenough)

[1922~2023]米国の物理学者ドイツの生まれ。リチウムイオン電池の正極材料にコバルト酸リチウムが適していることを発見。2019年、吉野彰らとともにノーベル化学賞を受賞した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「グッドイナフ」の意味・わかりやすい解説

グッドイナフ
ぐっどいなふ
John B. Goodenough
(1922―2023)

アメリカの物理学者。ドイツのイエナ生まれ。第二次世界大戦中、アメリカ空軍の気象担当として働くかたわら、1943年エール大学数学科卒業。戦後、シカゴ大学大学院に通い、1952年に物理学の博士号を取得した。1951年、アメリカの総合電機メーカー、ウエスティングハウスに技術研究者として入社、翌1952年から1976年にかけてマサチューセッツ工科大学MIT)リンカーン研究所でグループリーダーを務めた。1976年にオックスフォード大学教授に就任、同大学の無機化学研究所長を兼務。1986年からテキサス大学オースティン校教授。

 グッドイナフは、MIT時代、デジタルコンピュータの記憶装置内情報の任意読出しメモリー開発に従事し、記憶したデータに自由にアクセスできる「ランダム・アクセス・メモリー(RAM)」を初めて開発した。オックスフォード大学に移った1976年、エクソンにいたエンジニア、スタンリー・ウィッティンガムが、今日広く普及するリチウムイオン電池の先駆けといえる電池を開発していた。しかし、陽極(正極)に二硫化チタン、陰極負極)に金属リチウムを使ったこの二次電池は、充電を繰り返すうちに、電池内部に結晶ができ、ショートして発火するなど実用化には大きなハードルがあった。材料物理学に詳しいグッドイナフは、陽極の素材として二硫化チタンより、酸化物のほうがエネルギー密度が高く、安定性が増すと予想。東京大学から留学していた水島公一(みずしまこういち)(1941― )と、さまざまな候補物質を探索した結果、1979年に陽極にコバルト酸リチウム、陰極にはそのまま金属リチウムを使うことで、従来の2倍の起電力となる4ボルトの二次電池をつくれることを示した。これによって、電池のパワーや安定性は著しく向上し、実用化に近づいたが、金属リチウムを使っているため危険性は完全に克服されないうえ、オイル・ショックが収まり、石油価格が低下したことで、欧米ではリチウムイオン電池の開発熱は下火になった。この時期に、飛躍的にリチウム電池の安全性を高めたのが、旭化成のエンジニア、吉野彰(あきら)であった。吉野は、陰極に金属リチウムを使わずに、リチウムイオンを蓄える素材として石油コークスという特殊な炭素繊維を使うことを考案。1985年(昭和60)、陰極にこの石油コークス、陽極にコバルト酸リチウムを使うと、飛躍的に安全性が高まり、しかも4ボルトの高電位の電池がつくれることを発表した。今日のリチウムイオン電池の原型を、1991年(平成3)にソニーが世界で初めて商品化した。リチウムイオン電池の開発で、携帯電話、ノートパソコンなどのIT機器は飛躍的に進歩し、地球温暖化の元凶とされる化石燃料を代替するエネルギーとして市場は飛躍的に拡大した。

 2001年に日本国際賞、2009年エンリコ・フェルミ賞、2011年アメリカ国家科学賞、2014年チャールズ・スターク・ドレイパー賞などを受賞。2019年、「リチウムイオン電池開発」に貢献したとして、ウィッティンガム、吉野彰とともにノーベル化学賞を受賞した。97歳での受賞はノーベル賞史上最高齢。

[玉村 治 2020年2月17日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グッドイナフ」の意味・わかりやすい解説

グッドイナフ
Goodenough, John B.

[生]1922.7.25. イェナ
[没]2023.6.25. テキサス,オースティン
ジョン・B.グッドイナフ。ドイツ出身のアメリカ合衆国の物理学者。フルネーム John Bannister Goodenough。リチウムイオン電池の開発への貢献により,M.スタンリー・ウィッティンガム吉野彰とともに 2019年ノーベル化学賞(→ノーベル賞)を受賞。史上最高齢のノーベル賞受賞者となった。
アメリカ陸軍航空隊で気象官を務めながら,1943年エール大学で数学の学士号を取得。第2次世界大戦の終結後,シカゴ大学大学院で物理学を学び,1951年に修士号,1952年に博士号を取得した。1952年マサチューセッツ工科大学リンカーン研究所の研究員となり,自身の初期のプロジェクトの一つとして,初のランダムアクセスメモリ(RAM。→ラム)となる防空コンピュータ用メモリコア「セージ SAGE」の開発を手がけた。
1976年にオックスフォード大学教授兼無機化学研究所所長に就任。ウィッティンガムが 1976年に開発した世界初のリチウムイオン電池の正極を,二硫化チタンといった硫化金属ではなく酸化金属にすればさらに電圧が高まると考え,1979年にリチウムイオンを層間挿入した酸化コバルトを正極にした電池を共同研究者とともに開発した。ウィッティンガムの電池の電圧が 2.5Vしかなかったのに対し,グッドイナフの電池は 4Vだった。
1986年にテキサス大学オースティン校の機械工学・電気・コンピュータ工学教授に就任。2011年ナショナル・メダル・オブ・サイエンス,2014年チャールズ・スターク・ドレーパー賞,2019年コプリー・メダルを受賞。著書に『磁性と化学結合』Magnetism and the Chemical Bond (1963),『固形酸化物燃料電池技術:その原則,性能,作用』Solid Oxide Fuel Cell Technology: Principles, Performance and Operations(2009,ケビン・フアンと共著),自叙伝『恩恵の目撃者』Witness to Grace(2008)などがある。

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