ドイツの詩人、小説家、児童文学作家。ドレスデンに生まれ、第一次世界大戦に従軍。戦後、時代を風刺するユーモラスで辛辣(しんらつ)な叙事詩集『腰の上の心臓』(1928)によって文学的な出発をした。この作風は、小説の代表作『ファビアン』(1931)にも引き継がれる。しかし彼の名を世界的にしたのは、むしろ『エミールと探偵たち』(1928)をはじめとする児童文学作品であった。ドイツの児童文学はケストナーによって一新紀元を画し、国際的な水準に達することになる。しかし彼の自由主義的な現実暴露、辛辣な風刺はナチスの憎むところとなって、ナチスが政権を獲得した直後の1933年5月に、彼の著書は非ドイツ的という烙印(らくいん)を押されて焚書(ふんしょ)の厄にあい、児童文学の傑作『飛ぶ教室』(1933)を最後に、ドイツでは出版ができなくなった。亡命しなかったケストナーは、スイスからユーモア小説『雪の中の三人男』(1934)などを刊行して苦難の時代を切り抜け、第二次大戦後は西ドイツのペンクラブ会長となって(1951)活躍しながら、戯曲『独裁者の学校』(1957)、児童文学『ふたりのロッテ』(1949)、『サーカスの小びと』(1963)などを発表して、ふたたび旺盛(おうせい)な創作力をみせた。
[関 楠生]
『高橋健二訳『ケストナー少年文学全集』全8巻(1962・岩波書店)』▽『高橋健二著『ケストナーの生涯』(1982・駸々堂出版)』▽『板倉鞆音訳『ケストナァ詩集』(1975・思潮社)』
ドイツの詩人,小説家,劇作家。ドレスデンに生まれ,最初は教師を志した。第1次大戦で心臓を病み除隊。進路を変え,ライプチヒ大学で文学を修めるかたわら文筆活動を開始。劇評,大道演歌風の文芸寄席(キャバレー)シャンソン,新即物主義のいわゆる“実用詩”を《世界舞台》などの雑誌や新聞に寄せた。《胴の上の心臓》(1928),《鏡の中の騒ぎ》(1929)など4詩集や,モラリストの物語《ファービアン》(1931)により,ワイマール時代の実相とその危険性を鋭く映し出し,好評を博した。しかし,彼の本質は啓蒙的であるが未来性を欠く知識人の憂鬱と絶望にあり,〈左翼メランコリー〉(ベンヤミン)という批判も受けた。彼を著名にしたのは,むしろ《エミールと探偵たち》(1928)に始まる児童文学で,彼の啓蒙性はそこではプラスに働いて愛とユーモアに結びついている。1933年に児童物以外の作品をナチスにより焚書にされたとき,国外から帰国してそれを目撃,そのまま国内にとどまり2度の逮捕も切り抜けて,ユーモア小説や児童文学などの分野で文筆活動を続けた。戦後直ちにジャーナリズムに復帰,ミュンヘンの文芸寄席作家,西ドイツ・ペン・クラブ会長として活躍した。《点子ちゃんとアントン君》(1931),《飛ぶ教室》(1933),《ふたりのロッテ》(1949),《サーカスの小びと》(1963)など児童文学のほかに,小説《雪の中の三人の男》(1934),ナチス批判の戯曲《独裁者の学校》(1957),戦争日記《備忘録45年》(1961)などの作品がある。邦訳,映画化されたものも多い。
執筆者:保坂 一夫
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…そのあいだに,1896年ウォルフガストH.Wolfgastが新しい児童文学を提唱して,ローゼッガーP.Roseggerなどを生み,やがて詩人W.ボンゼルスの《蜜蜂マーヤの冒険》(1912)が出て,第1次世界大戦にはいる。オーストリアのザルテンF.Saltenの《バンビ》(1923)とE.ケストナーの《エミールと探偵たち》(1928)が出ると,新生面がひらけるかにみえたが,第2次大戦でとざされてしまった。しかし,わずかではあるが,ウォルフF.Wolf,ウィーヘルトE.Wiechertらのすぐれた作品がある。…
… この書物は1515年,19年にも版を重ね,1867年にはデ・コスタCharles de Coster(1827‐79)の《ウーレンシュピーゲルとお人よしのゲドツァク》が,想を新たにしてフランドルのダム生れのネーデルラント解放の戦士としてのオイレンシュピーゲルを登場させている。近代に入ると,R.シュトラウスの交響詩やケストナーの翻案によって,子ども向けの《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》として知られ,各国語に訳されて,世界中に道化者の話として普及してゆく。しかし子ども向けの道化話となってしまったために,かつての社会批判としての性格は失われていった。…
※「ケストナー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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